【ウィーン小川敏】欧州連合(EU)は15日から始まる加盟27カ国の首脳会談で、ボスニア・ヘルツェゴビナの加盟候補国入りを正式に決定する。同時に、コソボとジョージアの2カ国に「潜在的な候補国」のステータスを付与する予定だ。
欧州委員会は10月、ボスニアの加盟候補国入りを推奨していた。フォンデアライエン委員長は今月6日、アルバニアの首都ティラナで開催されたEU・西バルカン諸国首脳会議で、「加盟プロセスがここにきて再び勢いを増している」と述べ、西バルカン6カ国、アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、北マケドニア、モンテネグロ、セルビアの国家元首と政府元首に対し欧州統合への希望を提示したばかりだ。EUは6月の首脳会談でウクライナとモルドバ2カ国を加盟候補国に引き上げた。
EU加盟の新規拡大に対してはこれまでフランスなどは慎重な姿勢を崩してこなかった。フランスのマクロン大統領は「まずEU27カ国内の結束の強化を優先すべきで、新規拡大はその後だ」と主張してきた。
一方、ドイツやオーストリアは西バルカン諸国の欧州統合推進派だ。オーストリアのカール・ネハンマー首相 は「西バルカン諸国のEU加盟国促進は歴史的な一歩」と称賛し、旧ユーゴスラビア共和国の加盟候補国の地位を支持してきた。その理由として「欧州の入り口の西バルカンの地域安全と安定は極めて重要であり、それを構築するのは欧州の責任だ」と説明している。
ちなみに、オーストリアのファスルアーベント元国防相は11月11日、本紙とのインタビューで、「ロシアのウクライナ侵攻で軍事力を行使して国境線を変更する軍事的試みは失敗した。そして将来も成功することはあり得ないことを教えている。欧州は統合と多様性のあるシステムを構築し、各民族の特徴を維持する政治、社会体制を築いていくことが大切だ。その観点から、EUは西バルカン諸国の安定問題では大きな役割を担っている」と述べている。
西バルカンを含むバルカン全域は過去、「民族の火薬庫」と呼ばれ、民族間の紛争が絶えなかった。
ところで、フォンデアライエン委員長の「新規加盟プロセスがここにきて勢いを増してきた」とは具体的に何を意味するのか。ロシアのウクライナ侵攻で西バルカンの欧州統合を急ぐ必要性が出てきたという戦略的な判断が働いていることは間違いない。同時に、西バルカンでの中国の経済的影響力の拡大が大きな懸念材料として浮かび上がっていることだ。
ただ、加盟候補国にとってEUへの道のりは平坦(へいたん)ではない。ボスニアの場合、デイトン和平協定は3民族間の紛争を停止させたが、民族間の和解の道は依然、見えてこない。ただ、10月2日に実施されたボスニアの国政選挙で親欧州派の候補者が民族主義派の候補者を破った。コソボの場合、“バルカンの盟主”セルビアから2008年、独立したが、コソボ北部に住むセルビア系住民(約5%)とコソボの多数派アルバニア系住民(約90%)との間で小競り合いが絶えない。セルビアは今なお、コソボを独立国として認知していない。



