
冷戦時代、地理的に東西両欧州の間に位置するオーストリアにはソ連・東欧共産圏から200万人以上の政治亡命者が殺到し、オーストリアは「難民収容国」と呼ばれた。冷戦後も同国には経済難民が流入している。ネハンマー首相はここにきて「収容できる限界を超えている」と述べ、難民が流入する西バルカン・ルートへの対策に乗り出している。(ウィーン・小川 敏)
欧州連合(EU)の統計局「ユーロサット」が25日公表した加盟国の8月の難民申請件数は、EU全体で、前月と比較して17%増加した。加盟国の中でドイツが最も多く、8月には1万6950件、EU全体の22%の申請があった。それに次いでオーストリアは1万4030件で全体の18%、フランス1万1900件、15%、スペイン8650件、11%、イタリア5985件、8%だった。上記のEU5カ国は、EU内の全亡命申請者数のほぼ4分の3を占める。
人口比で見ると、オーストリアは人口100万人当たり1563人で最も多く、キプロス(1482人)、クロアチア(351人)が続く。亡命申請数が最も少ないのはハンガリーだ。
また、オーストリアは、保護者のいない未成年者難民件数でもEUトップで、8月に1885件の申請があった。前月7月と比較して48%増。これにドイツ(585件、21%増)、オランダ(580件、29%増)と続く。
EUの本部ブリュッセルで25日、EU内相理事会が開催され、増加する不法移民問題について話し合われた。欧州委員会は「西バルカン・ルートの行動計画」を発表した。これはオーストリアの要求を受けたものだ。欧州委員会で移民担当のスキナス副委員長は「西バルカン・ルートに関するさらなる行動計画を来月6日にアルバニアの首都ティラナで開催される西バルカン首脳会談で提示したい」と述べている。
スキナス副委員長は「移民と亡命のための包括的で構造的なフレームワーク構築が求められる。一つの危機から他の危機へ、船から船へ、事件から事件へというその場凌ぎの対応ではなく、EUの法律、価値観、原則に基づいた枠組みを必要としている」と説明した。
ヨハンソン欧州委員(内務担当)は「オーストリアは難民殺到で最も圧力を受けている国の一つだ。西バルカン・ルートへの対策に取り組むことが重要だ」と述べ、既に実施されている対策に言及し、「今後の課題」に対するアクション・プランを提示したいという。
オーストリアのカーナー内相は、EU委員会に五つの要求を行った。具体的には、①EUの外部国境に接するEU加盟国での難民申請手続きのためのパイロットプロジェクト②個別の評価を必要としない強制送還に関する「ルフールマン指令」③安全な第三国での難民申請手続き④重大でない犯罪の場合でも、手続き指令に基づく保護ステータスの撤回の簡易化⑤EUの国境および第三国でのフロンテックス(欧州国境沿岸警備機関)に対するEU諸国のより多くのサポート、等々だ。
よりよい生活を求めて欧州に殺到する移民は経済難民と呼ばれ、難民申請をしても認知される率は少ない。
最近では、「環境難民」と呼ばれる移民も増えてきた。同時に、多くの移民を欧州に不法に送る人身売買業者が暗躍している。
難民対策では加盟国内でも対立が表面化している。例えば、フランスとイタリアの両国は難民受け入れを巡り、対立している。イタリアが最近、救助船の入港を拒否したため、パリ政府は激怒し、「救助船には最寄りの港に行く権利がある」と抗議。それに対し、イタリアは「難民政策における他のEU諸国の連帯は不十分だ」と批判している、といった具合だ。なお、スキナス副委員長はEU域外での難民受け入れセンターの設置案には懐疑的だ。
バルカン諸国は歴史的に見てロシアの影響圏に入る。同時に、ロシア正教会とのつながりがある国が多い。EUの「西バルカン・ルートの行動計画」が難民殺到を阻止できるか否か不確かだ。「欧州に難民を殺到させ、欧州の政情を不安定にする」と脅迫したロシアのプーチン大統領の発言がここにきて不気味さを増してきている。



