【パリ安倍雅信】欧州連合(EU)は今月末の外相会議で、ロシア人観光客を締め出すかどうかを討議する。ロシアがウクライナに軍事攻撃を続ける中、欧州内で夏のバカンスを楽しむ多くのロシア人の姿に疑問が広がっているからだ。エストニアなどのバルト3国やチェコなどからは、加盟各国がロシア人の受け入れを規制しても効果はないとして、EU全体で制限措置を求める声が上がっている。
2019年の統計では、EU域外からの旅行者は、ロシアが米国に次いで多い。現在はロシア航空会社の欧州乗り入れ、欧州航空会社のロシア乗り入れが制限されているため、ロシア人観光客はトルコ経由あるいは列車でEUに入っている。ロシア人に人気のキプロスを含め、地中海沿いのリゾート地ではロシア人の姿が目立つ。
フランスやスペイン、イタリアのレストランでは、メニューの料理をすべて運んで来るよう要求し、食べ散らかすロシア人富裕層に不満が高まっていた。特に外国人観光客が世界一のフランスでは、他の国々からの観光客の間でロシア人への不満が広がり、ロシア人観光客を拒否するレストランも増えた。
そこに今度はウクライナ戦争が加わり、欧州市民がエネルギー不足や物価高で生活不安を抱える中、その原因をつくり出したロシアからの観光客の姿が不快感を高めている。ロシア人が訪れるフランス南部のレストランでは、ウエートレスとして働くウクライナ難民が増え、ロシア人観光客と遭遇する例も出て問題になっている。
EU内の大半の加盟国が人の移動の自由を保障するシェンゲン協定に入っており、協定国間の移動に旅券検査は必要ない。ロシア人観光客を締め出すには、シェンゲン域内に入る時点で制限する必要があり、月末の外相会議で討議することになった。
ただ、新型コロナウイルス禍で観光客増加に期待する地中海沿岸のスペイン、フランス、イタリア、ギリシャ、キプロスは、ロシア人締め出しには反対の構えだ。フランス南部サン=トロペの高級レストラン経営者は「観光客は天然ガスとは違う」と反発。これに対し、締め出し賛成派は「ロシア人が自分たちは非難されていることを知る良い機会」だと主張している。



