難局打開へ新政治スタイル 「国民再建評議会」発足へ マクロン仏大統領

念頭に「現代のレジスタンス」

フランスのマクロン大統領(AFP時事)

フランスのマクロン大統領は今秋、「国民再建評議会(CNR)」を発足させる方針だ。9月の新年度に教育、保健衛生、公共サービスなどについて全国規模で課題を共有する評議会を設立することで、より多くの国民の支持の下で政策実現を目指す。マクロン氏が大統領1期目から温めてきた構想だが、その船出は容易でないとの見方もある。(パリ・安倍雅信)

マクロン氏は今月20日、南フランス・ヴァール県ボルム=レ=ミモザで行われた第2次世界大戦でのドイツからの解放78周年記念式典に出席した。約4キロ離れた大統領別荘のブレガンソン砦での夏のバカンスを終えたマクロン氏は、式典の演説で9月8日に国民再建評議会を発足させる考えを明らかにした。

マクロン氏は下院選挙後の7月14日に行われた恒例の革命記念日のインタビューで、「夏の終わりにできるだけ早く国民再建評議会を立ち上げたい」との考えを示した。「われわれの民主主義は生きた民主主義だ」と述べ、最低賃金を下回る労働者が存在するなどのテーマについて、「全国民が結集して改革の議論をする必要がある」と述べた。

マクロン氏の念頭にあるのは、1943年にレジスタンス運動を調整するために設立された国民抵抗評議会だ。国民の合意形成に基づく政策決定という新しい政治スタイルを模索している。だが、多数派を形成する中道右派政党内でもコンセンサスを得ることは容易でない状況であり、与党内でも批判の声が上がっている。

マクロン氏の構想は、与党・中道政党が下院選挙で過半数を取れば、容易に設立できた。だが、過半数を割った現状では、野党だけでなく与党内にも抵抗勢力が存在し、険しい道のりが待ち受けている。

また、マクロン氏の念頭には、ドイツ支配下の抵抗運動で国民が危機感を共有する中、国民抵抗評議会によって練られた政治プログラムが機能したことがあるが、果たして現代の国民は危機感を共有できるのかという懸念もある。

ボルム=レ=ミモザの演説でマクロン氏は、ウクライナ戦争を終わらせる努力を継続する一方で、ロシアへの制裁の結果、エネルギー価格高騰やインフレなど国民がその代償を負うことは避けられないことに国民へ理解を求めた。

その上で、マクロン氏は「権利と義務からなる市民権という言葉の意味を復活させる」と、権利だけを主張する左派との違いも鮮明にした。また、「安全保障、エネルギー確保、生産性向上、雇用創出、子供や高齢者を保護する社会モデルを構築する」ことを強調した。

フランスはまた、脱炭素に取り組む圧力にさらされている。理由は今年6月以降に欧州南部を襲った熱波で、山火事と干ばつが発生したほか、雷雨による洪水被害など、地球温暖化による気候変動が深刻な被害を与えているからだ。

マクロン政権は今年2月、脱炭素に向けた移行期間の経済活動を支えるエネルギー源として、原子力発電を二酸化炭素の排出量の少ない有効な発電手段と位置付けた。現在、18カ所の原発施設にある56基の原子炉に加え、6基を新設し、さらに小型原子炉の開発を行う方針を明らかにした。このプロジェクト推進のため、原発事業者のフランス電力(EDF)を再国有化する方針を打ち出している。

政府にとって環境政策は重要な柱の一つだが、この問題でも国民再建評議会での対話によって、国民のコンセンサスを得たい考えだ。この冬を乗り切るための暖房のエネルギー源確保は、欧州全体の課題であり、ロシアからの天然ガス供給減による不安が広がっている。

国民再建評議会には政党や議会グループ、地方自治体、労働組合など、幅広い分野の関係者が集まることが想定されている。ただ、構想は具体性を欠いており、週刊紙ジュルナル・デュ・ディマンシュは「大いなる曖昧」と指摘している。

同紙が調査会社Ifopに委託して行った最新世論調査では、エリザベス・ボルヌ仏首相の支持率が先月の38%から41%に上昇したのに対して、マクロン氏の支持率は先月より1ポイント落ち、37%と低迷している。