【パリ安倍雅信】イタリアのドラギ首相は14日、マッタレッラ大統領に辞意を表明したが、同大統領はドラギ氏の辞任を認めず、議会で収拾を図るよう求めた。辞任理由は、中道左派の第2与党・五つ星運動が同日、上院での政府提出の経済支援対策の法案の採決を棄権したからだった。イタリアは他の欧州諸国同様、エネルギー価格高騰による国民生活の困窮に対して早急に手を打つ必要に迫られている。
ドラギ氏は五つ星運動の棄権を受けて「政府与党の信任なしでは政策を進められない。その条件がもう存在しない」と述べ、辞任を表明した。政権内では右派与党から前倒し選挙を求める声も出ている一方、五つ星運動は、政府が決めたウクライナへの武器支援について「紛争をあおる」と批判し、政権内対立が深まり、政局は流動化している。
一方、ドラギ氏とともにウクライナの首都キーウを先月16日に訪問した欧州連合(EU)の仏独首脳も政治的困難の渦中にある。5月に2期目に入ったマクロン仏大統領は6月の下院選挙で与党連合が過半数割れし、下院で法案を通すのが難しくなった。発足したばかりのボルヌ新政権が提出した新型コロナウイルスの衛生対策法は早速野党によって否決された。
革命記念日14日の恒例の大統領インタビューで、議会の抵抗で政権運営が容易でないことをマクロン氏は認めた。さらに自身が経済相時代に米タクシー配車サービス、ウーバーのフランス上陸で便宜を図る法改正に繋(つな)がる秘密文書が表に出て批判され、政権の鍵を握るダルマナン内相はレイプスキャンダルで政権を揺るがしている。さらにウクライナ情勢について非常に悲観的見方を示した。
ドイツのショルツ首相は現在、ロシア産天然ガスの供給が完全に停止される可能性があり、今年秋に向けたエネルギー調達で難しい選択を迫られている。年内に原発ゼロを達成することにこだわる連立の中核、社民党や緑の党に対して、与党の一角を成す自由民主党(FDP)は「イデオロギーにこだわっているときではない」として、原発停止延長を主張し、ショルツ氏の足元はぐらついている。
さらにEU3首脳が訪問した翌日の先月17日にウクライナを訪問した英国のジョンソン首相は、自身が率いる内閣の重要ポストの閣僚が次々に離脱し、辞任に追い込まれた。ウクライナのゼレンスキー大統領とさまざまな支援の約束をした欧州主要国4首脳は夏休みを前に苦境に立たされている。



