
【パリ安倍雅信】スペイン・マドリードで30日に閉幕した北大西洋条約機構(NATO)首脳会議は、フィンランド、スウェーデン2カ国の加盟申請を受け入れ、ロシアを最重要な具体的脅威と位置付け、同機構の軍装備の強化やアジア太平洋地域の中国の脅威を共有して閉幕した。
ロシアをパートナー国から最大の脅威国として、期限を定めずにウクライナ支援を継続することで合意したことは歴史的決断だったが、加盟各国首脳は自国に帰国後、国民の納得を得るのは容易でないようだ。仏パリ政治学院のジャン=イヴ・エーヌ教授は「同盟国は、ウクライナでの戦争の目的に対するさまざまな感情を抑えてきたが、この統一戦線を長期にわたって維持することは今後、より複雑になるだろう」と指摘した。
欧州外交評議会(ECFR)が先月15日に公表した調査によれば、リトアニアなどバルト3国やポーランドなど欧州東北諸国と仏独伊など西側諸国の温度差は、ウクライナ危機の長期化で開きが出ていると指摘している。同調査はロシアがウクライナに侵攻して4カ月となる欧州内の8000人を対象にしたウクライナ支援への世論の動向を調べたものだ。
NATO首脳会議同様、基本的に今でもヨーロッパ市民はウクライナへの強い連帯を示し、対ロシア制裁を支持しているが、戦争の早期終結を優先する平和優先派が全体の35%、ロシア勝利を絶対阻止し、厳しく罰すべきだという正義派は22%と分かれたとECFRは報告している。
正義派が平和優先派を上回ったのはウクライナの隣国ポーランドで、他の国は戦争の長期化による経済制裁の代価を払うことや核戦争へのエスカレートを懸念する声が強まる傾向にあるとしている。結果として戦争の長期化は望まず、ロシアが完全屈服するまで戦うべきだという意見は弱くなっている。
特に仏独伊では、平和優先派が増加しており、ロシアへの経済制裁の代価としての物価やエネルギー価格高騰による生活不安が国民の間で高まっている。マクロン仏大統領もショルツ独首相も自国民のウクライナ疲れによる世論の分断と今後闘わなければならない圧力がかけられている。
一方、クルド系過激派容疑者のトルコ人引き渡し要求やトルコへのEUからの武器販売の制限を解除することを条件に北欧2カ国のNATO加盟を支持したトルコのエルドアン大統領は、約束が履行されない場合は自国での批准はしないとNATO会議後に述べた。支持率が低下する同大統領は1年後の選挙を念頭にトルコ国内の世論を最重視している。
首脳会議でロシアとの対決姿勢を鮮明にし、加盟国の結束を内外にアピールしたNATOだが、加盟各国首脳は、ウクライナ危機の長期化で世論の分断が起きることを恐れていると言えそうだ。



