
ウクライナに武器供給するドイツに対し、ロシアはドイツ向け天然ガス輸出を大幅に制限してきた。再生可能エネルギーの拡大に乗り出す一方、脱原発、脱石油を掲げるドイツでは、新たなエネルギー供給源を探す一方、操業中の3基の原子力発電所の操業延長を求める声が高まってきた。(ウィーン・小川 敏)
ドイツでは昨年末、操業中だった6基の原発のうち3基がオフラインとなった。停止されたのはブロクドルフ(シュレスヴィヒホルシュタイン州)、グローンデ(ニーダーザクセン州)、そしてバイエルンの原子力発電所グンドレミンゲンだ。
今年末までには残りの3基の原発、バイエルン州、バーデンヴュルテンベルク州、ニーダーザクセン州の原発も停止され、輸出用の燃料と燃料要素を生産する二つのプラントのみ操業を継続した後、脱原発は完了することになっている。
2020年には、ドイツで発電された電力の約11%が原子力エネルギーから得られた。約20年前、全電力のほぼ3分の1が原子力エネルギーから生成されてきたが、脱原発政策が実施されて以来、その割合は年々、低下してきた。
昨年12月末に発足したショルツ連立政権(社会民主党、緑の党、自由民主党)は脱原発路線を継承、推進する方針を表明してきた。ショルツ氏は政権発足直後、「再生可能なエネルギーからより多くのエネルギーを生成する国になる」と表明し、その課題を「巨大な使命」と呼んだ。
シュテフィ・レムケ環境相(緑の党)は「脱原発は不可逆的だ。脱原発は計画通り進められる」と強調した。
ところがロシアのプーチン大統領が2月24日、ロシア軍にウクライナ侵攻を命令し、ドイツ政府のエネルギー政策を根底から覆す事態になった。ロシアに対し、欧米諸国は即制裁を科したが、その中でドイツがロシアとの間で推進してきた天然ガスパイプラインを敷く「ノルド・ストリーム2」計画が米国などの強い圧力もあって操業開始中断に追い込まれたのだ。同計画によって、ドイツは全電力の3割をカバーできると期待してきた。
その後、欧州連合(EU)は対露制裁を拡大し、ロシア産石油禁輸が決定された。欧州最大の経済大国ドイツはこれまでロシア産天然ガスと石油に大きく依存しており、石油禁輸には躊躇(ちゅうちょ)してきた。
ただ、ロベルト・ハベック副首相(経済・気候保護担当相兼任)は、「ドイツも年内にロシア産石油輸入を急減させることができる」との楽観的な見通しを明らかにした。同氏の説明によると、ドイツはこれまで石油輸入の約35%をロシアから輸入してきたが、今年4月末現在、その割合は12%に減少している。
ここにきて年内に操業を中止する3基の原発の操業延長を求める声が一段と高まってきた。ドイツ放送で22日、バイエルン州のマルクス・ゼーダー州首相は原発操業の延長を主張し、原発用の核燃料を早急に入手しなければならないと警告を発し、反響を呼んだ。
ドイツの大手エネルギー会社「RWE」のマルクス・クレバー最高財務責任者(CFO)は、「議論は遅すぎた。原子力発電所に必要な燃料棒をどこかから購入するかだけでなく、原子炉の種類にぴったり合った燃料棒が必要だ」と述べている。
原子炉用のウランはこれまでロシアから購入してきた。オーストラリアやカナダからも購入できるが、早急に注文し、新しい燃料棒を挿入しないと、原発の操業延長は難しくなる、というわけだ。
ゼーダー州首相は、「脱原発といったイデオロギーに固守している時ではない。真冬にエネルギー危機を迎えたならばどうなるか」と述べている。原発の場合、操業を数カ月や半年だけ延長する、といった短期間に制限することはできない。原子炉の燃料棒を入れ替えれば、少なくとも数年から5年といった操業期間が前提となる。
再生可能エネルギー源の拡大は急務だが、短期間では難しい。ドイツに残された選択肢は現時点で操業中の原発3基の操業延長しかなく、長々議論している時間はない。



