フォークランド紛争40年 尖閣諸島防衛への教訓

米ヘリテージ財団 ナイル・ガーディナー氏に聞く

侵略者の脅迫許せば危険な前例

――日本固有の領土である尖閣諸島が中国の脅威にさらされているが、日本はどのような対応を取るべきか。

 フォークランド紛争の教訓は、侵略者による脅迫を許してはならないということだ。今の中国は、アジア太平洋全域で軍事力と権威を誇示し、中国が領有権を持たない島々を脅かす侵略者だ。

 日本は領土を守ることを中国に認識させることが重要だ。さもなければ、中国は可能な限り多くのものを奪おうとするだろう。中国が近隣諸国を威嚇することに成功すれば、中国共産党政権は強化されてしまう。

 プーチン大統領率いるロシアは非常に危険だが、長期的には中国の方が大きな脅威だ。中国の野望を制限するために、日本は常に強さと決意を示さなければならない。

――領土防衛の意識が希薄な日本の政治指導者がサッチャー氏から学ぶべきことは。

サッチャー氏は、決断に時間を費やすのが好きではなかった。何が正しいか、間違っているかが直感的に分かっていた。極めて明確な原則とビジョン、イデオロギーに基づき、迅速に決断を下すことのできるリーダーだった。

これに対し、バイデン米大統領は信じられないほど決断が遅く、しかも間違った決断をすることが多い。そもそも自分が何をしているか、半分も分かっていない。バイデン氏はロシアのウクライナ侵攻を止めるために何もせず、ウクライナが必要とする兵器を提供するのにも時間がかかった。バイデン氏はサッチャー氏と正反対だ。

日本はバイデン氏ではなくサッチャー氏に倣ってほしい。中国を相手にする時、ゆっくり時間をかける余裕はない。中国は素早く動く。日本も迅速に動かなければならない。

――万一、尖閣諸島が中国に奪われた場合、どのような影響が及ぶか。

 もし日本が尖閣諸島を手放したら、非常に危険な前例となる。一度譲歩したら、中国はさらに多くの領土を求めるようになる。弱さを見せれば、独裁者はさらに多くの領土を求めてくる。これは1930年代のナチス・ドイツから学んだ教訓だ。

今は危険な時期だ。日本は中国にいかなる譲歩もしてはならない。

「新冷戦」勝利に必要な大局戦略

冷戦勝利の立役者であるレーガン元米大統領(右)とサッチャー元英首相=1985年2月、ワシントン(UPI)

――サッチャー氏は冷戦勝利の立役者の一人だが、中国との「新冷戦」に勝利するカギは。

サッチャー氏は中国と香港について多くの議論を交わした経験から、中国はいずれ自由世界にとって最大の敵になると警告していた。

冷戦の教訓は、敵を打ち負かすには、大局的な戦略が必要ということだ。つまり、軍事、経済、情報、ハイテク、思想・イデオロギーまで、あらゆる面で中国と対決する戦略と覚悟を持たなければならない。

バイデン政権下の米国では、まだ明確な戦略が確立されていない。だが、米国、英国、欧州、日本、オーストラリア、ニュージーランドなどが協力し、大局的な戦略を策定することが必要だ。それによって中国のパワーを抑え、世界を支配する超大国として台頭するのを阻止しなければならない。

――日英関係の展望は。

英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)は、日英関係を強化する絶好の機会だ。英国はEUの共通外交安全保障政策に縛られなくなり、行動の自由度が高まった。ジョンソン英政権は日本との関係強化を優先事項に位置付けており、今は日英関係にとってエキサイティングな時期だ。

1986年5月に来日し、日英の国旗に敬礼するサッチャー元英首相(UPI)

英国はアジア太平洋地域で再び大きなパワーになりたいと考えており、日本との協力はその中核となる。特に中国の侵略に対抗する防衛協力が拡大されるだろう。南シナ海で英国の軍事活動が増えることも予想される。

EUは国際舞台では非常に弱い存在で、常に分裂している。EUはロシアからエネルギーを購入することで、ロシアにウクライナ戦争の戦費を提供している。EUは中国に対しても宥和政策を取ることが多く、ロシアや中国に立ち向かうという点では、英国の方がはるかに強硬だ。