香港、愛国教育で共産党の正統性浸透

中国への修学旅行義務化 香港脱出の移民増で教育現場に混乱も

2018年5月、香港教育専業人員教会(教協)の創立45周年の祝賀大会で小学生たちの説明をうける林鄭月娥 行政長官(当時)(教協のウェブサイトより)

1日に中国返還25周年を迎えた香港では、記念式典で習近平中国国家主席が「中央による全面的な統治権を堅持し、愛国者による香港統治を実現しなければならない」と述べ、中国共産党の指導による優位性を前提に一国二制度を長期にわたって変えない方針が明確化した。とくに愛国教育は「公民科」教育で中国本土への修学旅行が積極的に推進され、中国共産党の正統性を浸透させる実地見学を重視している。(深川耕治)

2020年の香港国家安全維持法(国安法)の施行後、国の安全を大義名分化し、選挙から民主派が排除され、民主派メディアも廃刊や閉鎖に追い込まれた。さらには学校教育では愛国教育が本格的に導入され、社会や政治の仕組みが根底から変更されている。

民主派の教職員団体「香港教育専業人員協会(教協)」が昨年8月、解散を宣言。教協は1973年に創設され、約9万5000人の会員が加入する香港最大の教職員労働組合だった。長年、香港の民主化運動に積極的な役割を果たし、19年の大規模デモでは中高生を含む学生たちは教協に賛同。中央政府の逆鱗(げきりん)に触れ、解散を余儀なくされた。

香港教育局は昨年2月、国安法に基づく「国家安全 学校の具体的措置」との通達文を各学校に送り、教師や臨時教師に対して校内活動時、個人の政治的な立場を発表したり、宣伝したりすることはできないとする誓約を確約させる内容となっている。違反すれば刑事訴追され、学校に通告すると明示される極めて厳しい職務規程だ。

9月に新学期がスタートする香港の幼稚園、小中学校(日本での高校も含む)では生徒の欠員が目立ち、国安法の施行による反動で空前の香港脱出による移民ブーム(海外移住や海外留学)が学校運営を悩ませている。

教育局が発表した学生数最新統計によると、香港の小中高校での生徒数は20年10月~21年9月で年間約2万5000人が減少(3・6%減)。香港は少子高齢化が進み、香港統計處の予測統計によると、22~29年の6歳(小学1年生)と12歳(中学1年生)の人口動向は減少傾向。国安法の施行で香港から海外移民をする動きが加速すれば、小中学校の現場での教師や運営に、しわ寄せが来ることになる。

公立の大学でも同じ現象が起きている。香港都会大学(旧香港公開大学)では、20年の国安法の施行以来、教職員の流出問題が深刻化。全教職員の2割が離職し、香港を脱出して移民する「移民潮」で打撃を受けた。補充が必要な教職員は教授6人を含む92人に達し、「ようやく補充を埋め合わせた」(林群馨総長)と話している。

香港で義務教育となる中学、高校では、公民科、社会科の授業の一環として中国本土との交流が必須となり、9月の新学期で中学5年生(高校2年生)が公民科として中国本土の交流を開始。早ければ23年9月の新年度から毎年5万人の香港学生が中国各地へ修学旅行に行くことになる。

具体的には、教育局が提供する1泊2日から4泊5日の修学旅行スケジュール(21種類のルート)があり、中国共産党の革命、抗日による党史を学ぶことになる。行き先は香港に隣接する広東省(広州、中山、珠海、深●[=土へんに川]、肇慶など)、マカオ、福建省、貴州省など。貴州省では毛沢東の指導権が確立された遵義会議跡を巡って中国共産党の正統性を学び、深●(=土へんに川)の大鵬所城ではアヘン戦争が立ち上がる歴史を学ぶ。広東省虎門にある広東東江縦隊記念館では抗日戦争の歴史から反日史観、愛国精神を学ぶ。

とくに中国本土への修学旅行に熱心なのは、親中派系の学校。親中派の人材を輩出してきた創知中学(日本の中高一貫校に相当)では全校生徒の約7割が現状でも中国本土との交流を活発に行っており、5泊6日の中国本土への修学旅行を継続している。18年の修学旅行は貴州省貴陽に赴き、現地の学校と交流。革命記念館、愛国主義教育模範基地などを巡りながら一党独裁となった中国共産党の正統性を学習している。