中国「家庭教育促進法」の矛盾 学習塾禁止で流行る闇塾

「ゲームはアヘン」業界苦境に
中国では、子供の生活習慣の是正を求める「家庭教育促進法」が昨年10月、全国人民代表大会(全人代=国会に相当)常務委で可決され、1月1日、施行された。受験戦争を助長する営利目的の学習塾が禁止され、オンラインゲームの未成年への規制が進む。学習塾とゲーム業界は倒産、リストラが拡大する一方、過酷な受験戦争は変わらず、有名大学に合格させたい親が闇営業の学習塾に通わせようとするなど、習近平政権が目指す「共同富裕」の本質が教育の側面から問われている。
(深川耕治)

2021年6月、卒業前に記念写真を撮る中国・北京の大学生たち(UPI)

習近平政権が打ち出す中国式の格差是正策「共同富裕」の方針は、中国の学校教育、就職、社会の在り方に絶大な影響を与え始めている。

中国政府は共同富裕を阻む要因として不動産、教育、ITの3産業に厳しくメスを入れた。背景には、住宅ローンと教育費が家計を圧迫する要因になり、オンラインゲームが子供に与える悪影響が社会問題化していることがある。

中国共産党創立100周年を機に昨年7月24日、党中央が発表した子供の学習負担と家庭教育コストを軽減する「双減(二つの軽減)」政策は、学生の宿題負担の軽減と学習塾の削減という形で営業利益主導で急成長を遂げた塾業界の解体という衝撃を与えた。

小学1~2年生は宿題禁止、小学3~6年生は平均60分以内、中学生は平均90分以内で宿題を終えることが義務付けられ、学習塾の新設は不許可。既存の学習塾は非営利組織に変更され、週末や長期休暇に塾で教えることも禁止し、株式市場での資金調達すら禁じる。内容は中国版の「ゆとり教育」政策に見えるが、実質的な学習塾業界の解体だ。学習塾二大大手の新東方と好未来(TAL)、オンライン教育大手の高途(Gaotu)の株価は大暴落し、救済措置もほとんど取られていない。

学習塾だけでなく、ゲーム業界も苦境に直面している。

昨年8月、国営新華社通信系の経済参考報が、オンラインゲームは子供の精神をむしばむ「アヘン」「電子麻薬」などとして中国で大人気のゲーム「王者栄耀」を手掛けるIT大手、騰訊控股(テンセント)を名指しで批判。中国のゲーム大手の株価は急落した。

9月からは、18歳未満の未成年者がオンラインゲームで遊べる時間を金土日と法定祝休日の午後8時~9時のみに制限することが企業側に義務付けられた。日本では「ネトゲ(ネットゲーム)廃人」という言葉まで生まれ、中国でも過度な依存が青少年の心身の成長を阻んで深刻化。中国ではオンラインゲームへの審査が厳格化され、昨年7月下旬以降、新作公開の承認が1本も下りない状態が続き、この5カ月で1万4000社が倒産。リストラも相次いでいる。

オンラインゲームが規制され、学校での宿題が激減し、学習塾の営業が禁止されても、科挙制度のような「高考(大学入試)」による中国内での受験勉強の苛烈さは変わっていない。「上に政策あれば下に対策あり」で、保護者らは、何が何でも志望校合格のために違法な闇営業の塾に通わせ続けるケースが増え、根本解決には到底及ばない。

ネット上では有能な家庭教師を家政婦名目で探す保護者が急増し、月謝が日本円で30万円以上となるなど争奪戦となっている。表向きはピアノ教室や絵画教室、ヨガ教室を装い、実際は勉強を教える闇営業の塾が各地に広がり、教室の場所を次々に移動するなど、イタチごっこで当局の摘発は厳しさを増している。

富裕層の子供にしか有名大学を目指す環境やチャンスが与えられない現状を改め、所得格差による社会階層の固定化を防ぐという危機感が一連の歪みの反動を生じさせている。大学入試の在り方や学歴偏重の就職事情などが変わらない限り、受験をめぐる構図は変わらないが、その聖域に踏み込む英断があるか、習指導部に問われている。