「離米・親中」外交が鮮明 ブラジル・ルラ政権 中南米で中国の影響力拡大 イラン軍艦寄港も認める

4月14日、北京で歓迎式典に臨む中国の習近平国家主席(左)とブラジルのルラ大統領(AFP時事)

ブラジルの左派ルラ大統領による「離米・親中」外交が続いている。ブラジルの外交方針は「中立」が基本だが、2月には米国の反対にもかかわらずイラン軍艦の寄港を認めた。先月の訪中時には、新興5カ国(BRICS)間の決済で人民元などを用いることを提案するなど、中国寄りの姿勢を見せた。中国が外交攻勢を掛ける中南米では、台湾と断交する国も相次いでいる。ブラジルの動きは、中南米での中国や反米派の存在感をこれまで以上に強めるものとなっている。(サンパウロ・綾村 悟)

ルラ大統領は就任間もない2月11日、米国を訪問してバイデン大統領と会談した。ルラ氏は、1月に発生したブラジル連邦議会襲撃事件を念頭にボルソナロ前大統領を批判し、「民主主義を守るための闘いでブラジルを信頼してほしい」とバイデン氏に約束した。ルラ氏の訪米は、ボルソナロ政権下で疎遠になったバイデン政権との絆を深めたはずだった。

ところが、その訪米から約2週間後の同26日、核開発問題などで米国から制裁を受けるイランの海軍艦艇「マクラン」とフリゲート艦「デナ」が、ブラジルのリオデジャネイロに寄港した。マクランは、航空兵力や特殊部隊を運ぶことができるイラン海軍の旗艦だ。

中東諸国の中でも反米強硬派として知られるイラン海軍の艦船がブラジルに寄港するのは極めて異例のことで、米政府は寄港させないよう要請していた。米共和党のクルーズ上院議員は「(寄港は)米国の安全保障を揺るがしかねない行為だ」「ブラジルとの関係を考え直す必要がある」などと厳しく批判した。

イラン軍艦のブラジル寄港は、米国とイスラエルがサウジアラビアとの協力で保ってきた「イラン包囲網」に対抗するものだ。今年末には、イラン海軍がパナマ運河を航行して太平洋に出る計画も同海軍から発表されている。

一方、ルラ氏は、先月11日から16日の日程で中国を訪問した。2月の訪米を大きく上回る訪中団は、経済界などを含めて240人にも上り、貿易や投資、航空宇宙部門など多岐にわたる協定を結んだ。

14日の習近平国家主席との首脳会談では、米一極ではなくBRICSや20カ国・地域(G20)といった枠組みによる新たな世界秩序が必要との意見に同意した。米国が進める「対中包囲網」にブラジルは参加しないという確約に近いものだ。

さらに、米政府の制裁対象となっている通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の技術開発施設を訪問した。ブラジルメディアからは「米国を苛(いら)立たせる可能性がある」(フォーリャ紙)と指摘された。

加えて、ルラ氏はウクライナ戦争について、「米国による武器供与が戦争を煽(あお)っている」「ロシアとウクライナ双方に責任がある」などと発言した。これに対し、米高官が発言を批判する声明を発表するなどバイデン政権の反発を招いた。

ルラ氏は2003~11年に大統領を務めた際は、反米左派のベネズエラやキューバなどを擁護する立場にはあったが、ここまで米国に厳しい言動は見せなかった。

ルラ氏が中国に傾倒し、イランも米国の裏庭である中南米に進出するのは、ロシアによるベネズエラやニカラグアとの軍事協力などと併せて、この地域における米国の影響力が失われていることを示すものだ。

中南米は、歴史的に台湾と外交関係を結ぶ国が多かったが、近年は中国の切り崩しにより、多くの中米諸国が台湾との断交に踏み切った。南米で唯一台湾と外交関係を保っているパラグアイも、大豆や牛肉の生産団体が中国との貿易を望んでいる。

ルラ氏は習主席のブラジル訪問を招請した。現在の南米は左派系の首脳が多く、習主席の中南米歴訪が行われた場合には、中国の外交攻勢がさらに強まることが予想される。