カンボジア、中国傾斜が顕著に 人民解放軍と軍事演習再開

リアム海軍基地 共同運用も

カンボジアの中国傾斜が顕著になってきた。フン・セン政権による野党解体やメディア弾圧などに反発して、経済制裁を科した米国の影響力が薄らいだ間隙(かんげき)を縫うように、中国の手が大きく伸びてきた。注目されるのは、アフリカのジブチに次ぎ2番目の中国人民解放軍の海外基地がカンボジアに建設されるかどうかだ。(池永達夫)

恒例だった米国との軍事演習は2017年以降、カンボジア側の意向で中断したまま。今では昔話となってしまった。しかもカンボジア王国軍(RCAF)が、米軍に代わり中国人民解放軍との軍事演習を行うようになって久しい。

コロナ禍で3年間は中止が続いたが、今年から再開。先月23日から今月5日までの2週間、治安維持と災害救助の合同軍事演習「ゴールデンドラゴン2023」をトンレサップ湖の南東にあるコンポンチュナン州で実施したばかりだ。

カンボジアのフン・セン首相=2023年12月、ブリュッセル(AFP時事)

バイデン米政権はカンボジア政府に対し「地域と世界の安全保障を脅かす中国軍の影響を減らすよう促す」との声明を出しているものの、フン・セン政権は聞く耳持たずで突っぱねている格好だ。

中国は昨年6月から、無償でのリアム海軍基地拡張工事を始めている。しかし、中国に無償のボランティア精神を期待できるはずもなく、「ただほど高いものはない」ともいう。

専門家筋で言われ始めているのが、リアム海軍基地の共同運用だ。艦船の単なる寄港ではなく、人民解放軍の海外基地としての運用だ。もし、これが事実なら人民解放軍は、ジブチに次ぐ2番目、インド太平洋地域では初の恒久的な海外拠点をカンボジアに構築することになる。

リアム海軍基地では、中国企業が人民解放軍の工兵と協力し、船舶修理用ドックやメンテナンス工場、二つの埠頭(ふとう)も建設する。喫水の深い軍艦が入港できるよう海底のしゅんせつ工事も始まっている。工期は2年、完成するのは来年後半だ。

リアム基地に関してはかつて、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが、「カンボジアが基地の軍事利用を中国に許可することで合意した」と報じたことがある。

3年前には、米国の援助で建設されたリアム海軍基地内の施設が解体されたことが判明し、翌年には新たに中国が支援したとみられる施設が建設されたが、これらの小さな事実は「炭鉱のカナリア」同様、ダイナミックに出てくる中国の兆候と捉えるべきだったのかもしれない。

カンボジアという国柄は、常に地域外の大国を後ろ盾としたがる傾向が強い。これはインドシナ半島の一国家として、近隣国からの脅威にさらされてきたため、地域外の後ろ盾を得ることで近隣国の膨張を抑えることが生き残りのための必須条件となったためだ。その地政学的状況は、カンボジアの地図を見ると一目瞭然だ。長い海岸線を持つベトナムやタイに比べ、カンボジアの海岸線は短く、東西双方からきんちゃくのひもを締めるように押し込まれている。

フランスの植民地から独立した以後の歴史を俯瞰(ふかん)しても、シハヌーク政権時代(1953~70年)は米国と断交し中国と関係強化を図り、ロン・ノル政権時代(70~75年)は一転して、米国による全面的な軍事・経済支援に依存した。そしてポル・ポト政権時代(75~79年)には再び中国を後ろ盾とした。さらに人民革命党政権時代(79~91年)は、ベトナム・ソ連の支援に頼った経緯がある。その意味ではフン・セン政権の現在は、第3次の中国後ろ盾政権ということもできる。一方の中国は1991年のソ連崩壊によって北の脅威が消滅したことで南進策を採択。東南アジア進出のアクセルを踏んだ経緯がある。