タイ下院が解散、5月に総選挙 与党大敗なら親軍政治脱却も

タクシン派野党の支持率は50%

前回、2019年タイ総選挙の選挙風景(AFP時事)

タイ下院が20日、解散した。プラユット首相が決めた。5月14日投票となる総選挙(下院選)の焦点は、クーデターによってタクシン元首相の政権を奪い9年続いた親軍政治が終止符を打ち、タクシン元首相の次女ペートンタン氏を首相候補として担いだ野党「タイ貢献党」が復権を果たすかどうかだ。(池永達夫)

総選挙は親軍の「国民国家の力党」などの連立与党に、タクシン元首相派の「タイ貢献党」をはじめとする野党勢力が挑むことになる。総選挙後に実施される首相指名選挙は下院議員(定数500)と、軍政下で任命された上院議員(定数250)が合同で投票。上院議員は国軍の意向になびくものとみられ、親軍勢力が多数派になりやすい仕組みとなっている。

それでも政局は流動的だ。とりわけ長年続いた親軍政治に国民が飽き飽きしていることから、親軍与党が総選挙で圧倒的劣勢に立った場合、一気に政治の流れが変わる可能性がある。

前哨戦として注目された1年前のバンコク都知事選では、タクシン元首相派のチャチャート・シティパン氏が過去最多となる138万6215票を獲得して当選。次点者に113万票もの大差をつけた圧勝だった。再選を狙った親軍派の前バンコク都知事は全候補者のうち5位でしかなく、票数は21万票しか獲得できなかったことから親軍派に衝撃が走った経緯がある。

さらに政局を流動的にしているのは、与党内の分裂騒動だ。

プラユット首相は与党の中心である「国民国家の力党」内で支持基盤が弱体化してきたため、自身で新党「タイ団結国家建設党」を立ち上げ首相続投を目指す一方で、「国民国家の力党」は副首相のプラウィット氏を首相候補とするなど、与党分裂の政局図となったことから勢いは野党にあるのは歴然としている。

その野党最大の「タイ貢献党」は、タクシン元首相の次女ペートンタン氏を首相候補として政権奪還を目指す。

タイ国立開発行政研究院(NIDA)が19日に公表した世論調査では、「次期首相にふさわしい人物」でペートンタン氏が38%とトップとなり、プラユット氏は3位の15%にとどまっている。

また同調査で比例代表の投票先として最も支持を集めたのは、タイ貢献党で50%だった。昨年9月の同調査では34%だったことから、タイ貢献党は上昇機運にある。2位は野党第2党のリベラル派政党「ガウクライ党」で17%。3位がプラユット氏を首相候補として推す「タイ団結国家建設党」の12%だった。

タイ貢献党はこのほど、総選挙の目標議席数をこれまでの250議席から310議席に引き上げた。4年前の総選挙でタイ貢献党は、下院500議席のうち最多の136議席を獲得し第1党となったものの、獲得議席数で第2党だった国民国家の力党の多数派工作に敗れ政権樹立には至らなかった。このため、政権樹立のための勝利ラインを310議席に設定した模様だ。