南シナ海レーザー照射問題 比が中国に抗議、親米に傾く

インドの対艦ミサイル配備へ

2月6日、フィリピンの沿岸警備隊の船にレーザーを照射したとみられる中国海警局の船(フィリピン沿岸警備隊提供)(時事)

フィリピンと中国が領有権を主張する南シナ海で、中国海警局の船がフィリピンの沿岸警備隊に向けて軍用レーザーを照射する問題が発生した。中国を非難するフィリピンに日本をはじめとする複数の国が支持を表明するなど、改めて南シナ海進出を図る中国に懸念が強まっている。フィリピンは巡航ミサイルの導入や米軍との共同パトロールで中国への牽制(けんせい)を加速させている。(マニラ・福島純一)

フィリピンの沿岸警備隊によると2月6日に、南シナ海の南沙諸島付近にある排他的経済水域(EEZ)で補給任務に就いていた巡視船が、中国海警局の船から強力なレーザー光線の照射を受けた。この照射により乗組員が一時的に視力を失ったという。

この問題を受けマルコス大統領は、中国の在フィリピン大使を召喚して「深刻な懸念」を表明した。外務省によると今年に入り、南シナ海における中国船による攻撃的な活動に対する外交抗議は、すでに8回にも及んでいるという。

このフィリピンの抗議にカナダ、日本、オーストラリアは、2016年にオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が出した中国の九段線の主張を否定する判決を根拠に支持を表明。中国に国際法の尊重を強く求めた。

また2月2日には、オースティン米国防長官とフィリピンのガルベス国防相がマニラで会談。かねてから両政府間で交渉が行われていた「防衛協力強化協定(EDCA)」に基づき、米軍が使用できるフィリピン国内の拠点を現状の5カ所から9カ所に増やすことで合意に至った。さらに南シナ海で米海軍とフィリピンの海軍、沿岸警備隊による共同パトロールの実施でも合意。台湾有事の懸念が高まる中、米軍が地政学的に重要なフィリピン周辺地域で、軍事活動がしやすい環境が整えられつつある。

この共同パトロールについてロムアルデス駐米フィリピン大使は、日本とオーストラリアが参加に向け水面下で交渉中であると発言。また2月22日にフィリピンを訪問したオーストラリアのマールズ副首相兼国防相はガルベス国防相と会談し、南シナ海での共同パトロールの実施について、前向きに検討していることを明らかにした。一方、日本大使館は現地メディアに対し、共同パトロールについて「具体的な議論は行われていない」としながらも、インド太平洋地域の安全確保のための海洋協力を「模索」していることを明らかにしている。

このようなフィリピンと米国との緊密な動きに中国は強く反発。在フィリピン中国大使館は「地域の平和と安定を損ない緊張を高めるものだ」と声明で指摘し、米軍の動きを牽制した。

2月9日に訪日し岸田首相と会談したマルコス大統領は、「フィリピンにおける自衛隊の人道支援・災害救援活動に関する実施要領」に署名し両国の共同訓練等の強化を検討することで合意。さらに南シナ海における中国進出を念頭に防衛装備・技術協力の分野で協力することで一致した。

このような緊張状態が続く中、フィリピン海軍はインドから対艦攻撃を想定した超音速巡航ミサイル「ブラモス」を配備する準備を着々と進めている。フィリピン国防省は2022年1月にインド政府と3億7500万ドルに達するブラモス調達に調印。そして今年2月には海軍から選抜された21人の要員がインドでの訓練を終え本格的な配備を待つばかりとなっている。圧倒的に艦艇の数が少ないフィリピンにとって、ブラモスは国防の要になることが期待されている。

ドゥテルテ前政権では親中に大きく舵(かじ)を切ったフィリピンだったが、マルコス大統領は「領土を1インチも譲るつもりはない」と強硬姿勢を示すなど方向転換。親米に大きく傾きつつある。しかし1月に訪中したマルコス氏は、中国の習近平国家主席と会談し農作物の輸出増加で合意するなど、主要貿易国である中国は依然として無視できない存在であり、米中バランス外交の腐心は今後も続きそうだ。