
東南アジア諸国連合(ASEAN)は今月中旬、カンボジアの首都プノンペンで開かれた首脳会議で東ティモールをASEAN加盟国に迎え入れることで原則合意した。早ければ2025年にもASEANは、これまでの10カ国から11カ国体制になる。それまで東ティモールは、オブザーバーとして首脳会議を含むすべてのASEAN関連会合への参加が認められる。(池永達夫)
東ティモールのASEAN加盟申請は11年前に行われたが、シンガポールなどが東ティモールの財政事情などを理由に反対していた。
ASEANは、経済セッションだけでも年間700近い会議があり、加盟国はその費用を負担し、専門的人材を送り出さなければならないし、議長国は輪番制だ。
東ティモールの2020年の人口は131万人、GDP(国内総生産)は約19億ドル(約2448億円)と人口規模では長崎県と同程度、経済規模では同県の県内総生産の20分の1程度だ。国としての身の丈を考慮すれば、かなり無理がある。
それでも3年ぶりとなった対面でのASEAN首脳会議で急遽(きゅうきょ)、東ティモールをASEAN加盟国として門戸を開いたのは、同地域の地政学的価値が急上昇してきた背景がある。具体的に言えば、中国の南太平洋進出と、それを拒もうとしている米豪など西側諸国との軋轢(あつれき)の焦点になっているためだ。ASEANとすれば、その軋轢の中でバランサーとして政治的求心力を高めたい意向がある。
中国の南太平洋進出ぶりは顕著だ。
経済協力をてこにキリバス、バヌアツなどへ影響力を強めてきた中国は今春、ソロモン諸島とも安保協定を結んだ。協定の中身は明らかにされないままだが、事前に流出した協定草案には、ソロモン諸島が中国軍の派遣や艦船の寄港を認めるなど、高度な軍事協力が盛り込まれていた。同協定によって、中国軍がソロモンに駐留するようになれば、南太平洋の安定と航行の自由が脅かされる恐れがある。
中国の一帯一路構想はユーラシア大陸の東西を陸路と海路で結ぶだけでなく、刀を太平洋に突き出す格好で南太平洋にも伸ばしている。一帯一路構想の特質は、経済開発と安全保障が絡んだ軍事拠点の確保が一体となっていることだ。インフラ投資と経済援助で政治的影響力を強めながら、中国は軍事拠点化を着実に進めている。
中国がソロモン諸島や東ティモールなどに関与しているのは、南太平洋での米豪分断の野心があるからだ。遠望しているのは西太平洋を「中国の海」にすることだ。
こうした中国の動きに敏感に反応しているのが米国だ。ホワイトハウス国家安全保障会議のカート・キャンベル・インド太平洋調整官が中国・ソロモン諸島安保協定締結後の3日後に急遽、ソロモン諸島を訪問したのも、こうした安全保障上の懸念を持っていたためだ。また、南太平洋において米大使館の新設・再開を目指す動きが顕著なのも、同海域への進出が際立つ中国を牽制(けんせい)したい意向があるからだ。
ASEANとすれば、こうした米中の思惑に翻弄(ほんろう)されることなく、逆にその鼻面をつかんで安全保障だけでなく経済的にも東南アジアの存在感を高めたい意向がある。それが2002年に独立して20年を経たばかりの東ティモールを、11番目のASEAN加盟国として迎え入れた理由だ。



