ここ数カ月、ラーム・エマニュエル・駐日米国大使によるLGBT法制化推進の度重なる内政干渉が目にあまる。加えて、最近になって今度は新任の呉江浩・駐日中国大使が、日本の安全保障政策上の核心的な呼び掛けである「台湾有事は日本有事」について、「荒唐無稽」と批判する内政干渉を行った。
各国駐日大使が従来、このように日本の国内政治に内政干渉することはなかった。しかもこのようなあからさまな内政干渉に対して、外交関係に関するウィーン条約9条の1に基づく「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましくない人物)」の通告はおろか、外務省が厳しく対応するそぶりもない。林芳正外務大臣すなわち岸田政権の外交の危機ではないか。
大手製薬メーカー・アステラス製薬の社員が去る3月、中国の反スパイ法違反容疑で拘束されたことを受け、直後に林外相が訪中するも成果が得られず帰国した。それどころか王毅・中国共産党中央外事工作委員会弁公室主任との懇談の様子が、日本が中国の属国ごとき印象を世界に与えたことが記憶に新しい。日本外交のパフォーマンスは、「戦後レジームからの脱却」途上の「主権」回復度のバロメータを示す側面を持つ。
LGBT法制化の根本的脅威は、「理解増進」という聞こえのよさを入り口としたからとて、日本の国のかたちを根底から揺さぶる「蟻の一穴」になりかねない点だ。日本の国のかたちといえば、まずは皇室であり家族である。皇室における男系男子の皇統継承の伝統を持つわが国にとって、LGBT法制化で議論の焦点となった「性自認」という概念がいかに脅威であるか、ということは自明であろう。それゆえ自民党内での議論が紛糾する。12日の各社「了承」などという報道など、部会会議の内情とは乖離(かいり)甚だしい。
故・安倍晋三元首相が主導した外交上特筆すべき功績の一つが「自由で開かれたインド太平洋」構想だ。岸田首相は外相としてこれを支えた。最近中国をしのぎ人口で世界一となったインドはもとより、米国の仲間入りを含めて、日本主導で普遍的価値観を共有する環太平洋諸国の世界的連帯と安全保障の枠組みをつくりあげたことは、戦後の日本外交史に新しい地平線を開いた。
先人から受け継いだ日本の国のかたちを守りながら、国民の安全確保と経済的繁栄を軸に国益に資するため、日本外交は諸外国との関係を調整し、より積極的には世界を舞台に日本の美徳と英知を遡及(そきゅう)する。
首相・外相を中心に、外交上ののるかそるか、発展か後退か、戦後体制からの脱却かそれへ埋没か、パフォーマンスが常時緊張状態だ。いずれ国益に反する前代未聞の内政干渉には毅然(きぜん)とした外交上の対応が必要だ。
(駿馬)



