「やっぱり働きたくない」のか  フランスから

3月末、フランス政府は年金受給開始年齢を62歳から64歳に引き上げる改革法を強引に成立させた。日本から見れば、法定退職年齢引き上げは少子高齢化で避けられないと思うが、抵抗を続けるフランス人も多い。

一見「フランス人はやっぱり働きたくないだけか」というイメージを与えているが、それだけではない。実は10年前に比べ、他の年齢層に比べ、50歳から64歳の雇用率は8・2%も上昇した。ただし、中身は短時間労働が占め、頭脳労働者が多い。

それに年金受給年齢が62歳の現時点で、61歳時点で約4割が無職やパート状態にあるという厳しい現実がある。彼らは失業保険やさまざまな特殊手当で生き延びて年金受給を待っている。一定の年齢を過ぎると雇用機会が減少する厳しい現実が追い打ちを掛けている。

特にデジタル化が進み、今までの経験が役に立たない状況が増える中、50歳代に入る時点で生活不安、老後の不安が襲ってくるケースは増える一方だ。そこに年金受給年齢引き上げとなると本当に生活できるのかという心配が広がる。

一部の芸能人を除き、死ぬまで働こうというフランス人はほとんどいない。芸術家でさえ、彼ら専用の高齢者施設があるほどだ。人間らしく生まれ、人間らしく生き、人間らしく死ねることを国民に保証するのが国家という認識はフランスには強い。その一部である年金制度に手を触れることは、大きな問題となることを、まざまざと見せつけていると言えそうだ。(A)