【上昇気流】(2023年4月21日)

岸田文雄首相の遊説先で起きた爆発事件で、現場から約60㍍離れたコンテナで見つかった穴=19日午後、和歌山市

岸田文雄首相の選挙遊説会場に投げ込まれた爆発物にはナットのような部品が取り付けられ、殺傷力を高めようとした可能性があるという。60㍍先のコンテナに穴を開けるほどの威力だ。威力業務妨害容疑で逮捕された木村隆二容疑者だが、当然、殺人未遂容疑も視野に入れるべきである。

自家製とみられるパイプ爆弾を製造していたことや選挙遊説中を狙ったことなど、昨年7月に起きた安倍晋三元首相銃撃テロ事件の模倣犯の可能性が濃厚だ。容疑者は、年齢などの理由で昨年の参議院選挙に立候補できなかったことは不当だとして国家賠償請求訴訟を起こしている。

安倍氏暗殺事件は明らかなテロである。しかし、山上徹也被告の母親が入信する世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に焦点がずらされ、テロの凶悪性が脇に追いやられてしまった。

そればかりか、山上被告への同情論や、一部で英雄視する動きまで起きてしまった。テロに対する甘い空気が、今回の事件を誘発させた可能性は高い。

事件前日には、作家で法政大学教授の島田雅彦氏がインターネット番組で、安倍氏銃撃事件を念頭に「暗殺が成功してよかった」などと発言。「公的な発言として軽率であった」との文章を夕刊フジに送った。

この発言は、白井聡京都精華大学准教授、ジャーナリスト青木理氏とのトークでのものだが、相手の2人も問題にしていない。テロ容認の風潮が日本の民主主義に落とす影はあまりにも深く暗い。