
音楽家の知人から、ハンガリーの作曲家、ベーラ・バルトーク(1881~1945年)について教えてもらったことがある。幼少期からピアノや作曲で才能を発揮し、祖国の民俗音楽を調査し、新しい音楽世界を創り上げた人物。
「カンタータ・プロファーナ」は、父親と、鹿に変身して大自然に帰ってしまう9人の息子たちの物語だ。リズムも音階も非西洋的で、古代世界を思わせるが現代的。彼は民族と家族を愛しながら戦争とファシズムの悲劇の時代を生きた。作品の中に彼は人生の全体験を投入したに違いない。
聴くごとにその不思議な音楽語法が心に染みてくるが、なじんだ曲のようにすぐに味わえるわけではない。それは未知の世界に足を踏み入れることにも似ている。
この過程は音楽独特のもので、大黒達也氏の『音楽する脳』(朝日新書)は、それを脳の機能から説明してくれて興味をそそる。12音技法(無調音楽)を初めて聞くと難解さ故に楽しむことが難しいが、たくさん聞くと、奥深さを堪能できるようになり、感動が深まるという。
脳が順応するのだという。逆に、ピタゴラスが音律を発見していなかったら、私たちの脳は無調音楽を聴くために発達していたかもしれないという。
世界には西洋的ではない音楽がたくさんあった。バルトークが出合ったのもそのような農民固有の音楽。そこには文字にされなかった歴史がある。
(岳)



