【上昇気流】(2023年3月15日)

永田陸人容疑者(写真右)と野村広之容疑者(写真左)

「こんな静かな町で起こるなんて」――。事件現場でTV局のスタッフにマイクを向けられた地元住民がよく発する言葉だが、1月中旬の東京・狛江市の強盗殺人事件も多摩川沿いに土手道が続く平穏な街の一角で起きた。これまでに4人の実行犯が逮捕された。

そのうち1人は、別の事件現場で見張り役をしている際に警官の職務質問で逮捕され、その後の調べで狛江市の事件にも関わっていたことが分かった。闇バイトの“仕事”を次々と請け負いこなしていく感覚で、殺人さえ手掛けたということか。

その指示役とみられる「ルフィ」と呼ばれる存在もクローズアップされている。それが誰でどんな指示を出し、その役割は何だったのか、まだよく見えてこないようだ。この人物が主犯となるのか、あるいは実行役がそうなのか。

ベルギーの推理小説家ジョルジュ・シムノンは『メグレ警視の事件簿』などの作者だが、翻訳家の安堂信也氏は人気の秘密について「(『だれが殺したか』というより)彼の本領は…『なぜ殺したか』にある」(『三文酒場』あとがき)と評している。犯人の心理や犯行の手順をとことん暴き出し、最後、理に叶った罰を与えるという展開だ。

今回の通信機器を使った凶悪犯罪。通信記録が残っている分、事件の手掛かりは得やすいが、犯人たちの役割について把握しにくいともいう。小説のようにはいかないだろうが、全容の解明と納得のいく裁きを求めたい。