【上昇気流】(2023年2月16日)

山岳ガイドの野村良太さん

「以前から私は、真の探検家がさまざまな探検の過程で築き上げたその人間性が探検以外の人たちに与えるインフルエンス(影響)というものに、非常に大事な価値を認めていた」。

登山家の植村直己が『北極圏一万二千キロ』(文春文庫)の冒険旅行を成し遂げた時、師の西堀栄三郎が序に記した一節だ。探検は冒険と言い換えてもいい。西堀は人間が夢や希望や大志を持つことの重要性を語る。

植村没後、その功績を称(たた)えて「植村直己冒険賞」が設立され、第27回受賞者に山岳ガイドの野村良太さんが選ばれた。積雪期に北海道の分水嶺を単独で縦走した功績による。記者会見が都内で開かれた(小紙2月8日付)。

昨年2月26日、宗谷岬を出発し、約670㌔のルートを63日間かけて踏破、4月29日に襟裳岬に到達した。緩やかな宗谷丘陵から始まり、北見山地、石狩山地を経て、日高山脈を縦走する壮大なコースだ。

このコースを一つなぎで踏破した人は皆無。ホワイトアウトや猛吹雪の中を進み、気象条件は最も厳しい季節だ。野村さんは1994年大阪府出身。北海道大在学中にワンダーフォーゲル部に所属して登山を開始した。

2019年に積雪期の知床半島全山単独縦走、日高山脈全山単独縦走。20年に厳冬期表大雪十勝連峰縦走を達成した。その延長の冒険だ。距離が長いので4カ所に食料をデポした。新しいフィールドの発見とその踏破は、人間の創造的な行為だと言えよう。