
今年は、真言宗の開祖空海の生誕1250年だ。真言宗各派において慶祝事業が計画されている。高校時代に真言宗の坊さんから、空海の『三教指帰(さんごうしいき)』を勧められたことがある。
儒教、道教、仏教を比較し論じたもので、弱冠24歳の時に著したというから、驚きだった。
空海の多くの業績の中で、綜芸(しゅげい)種智院の開設は、わが国最初の私立学校として特筆される。『三教指帰』の思想を具体化したものでもある。
性別・親の身分に関係なく広く門戸を開き、仏教のほか、儒教、道教を通じては礼節と道理を学び、さらには医学、建築学などさまざまな俗世の学問を兼学して内外両面にわたる研鑽(けんさん)を重ねることを目指した。
「そのカリキュラム化は感嘆に値する」と空海研究家の北尾克三郎氏は述べている。
無償の奨学金制度もあった。また教師にも十分な手当が支給された。ただし教師は、四書五経に通じるなど深い教養と人格が求められた。
この総合教育の場は空海入定(にゅうじょう)後、程なく閉校に至ったが、国家の黎明(れいめい)期に、教育の機会均等を説き、総合的人格を育成する教育こそが国造りの根幹であると説いた空海の思想は、現代においても色あせることはない。
否、むしろ知識が細分化され、教師も専門化されてしまっている今日においてこそ、必要とされるものではないだろうか。
(荘)



