【上昇気流】(2023年1月24日)

徳川家康

NHK大河ドラマ「どうする家康」で、徳川家康は毎回のように難題に直面し、家臣たちから「どうする」「どうする」と決断を迫られ、ほとんどパニック状況になる。そんな過程を経て成長し、泰平の世を築いていくのが見どころのようだ。

実際、江戸幕府を開くまでに家康は何度も難しい選択を迫られた。その連続と言っていい。

ドラマの中で家臣たちが畳み掛けるところは、歌舞伎で主人公が困難な選択の場に置かれ、「さあ」「さあ」と周りから迫られる場面を思い出す。1人が「さあ、さあ」と言うのでなく、2人の人物に分けて言わせる「割り科白」の形になっている。

例えば「弁天小僧」浜松屋の場で、女装した弁天小僧が二の腕に彫り物があるのを見つけられ、実は男ではないかと疑われる。日本駄右衛門が「女と言い張るなら、乳房を改めようか」と迫る。そして弁天小僧「さあ」、駄右衛門「さあ」、両人「さあ、さあ、さあ」という具合になる。

畳み掛ける調子と音楽的な効果で、難しい選択に追い込まれた人物の切迫感が表現される。歌舞伎独特の科白回しで、芝居の見せ場の導入部分で使われることが多いようだ。

「どうする家康」は家康役が松本潤さん、織田信長役が岡田准一さんと、ジャニーズ事務所の色合いが強い。幼年時代のトラウマを抱えた家康の成長物語の雰囲気といい、いろいろな面で今風だ。その一方で、歌舞伎的なものが入っているというのが面白い。