【上昇気流】(2023年1月19日)

アメリカ上空

かつて米国のワシントンで行われた国際会議に出席した帰路、航空機で東京に戻ったことがあった。窓際の席から大陸の風景を飽かずに眺め、ノートに次々スケッチした。

ルートは北に向かい、五大湖の一部が見えた後、人が踏み込むことができないような土地の上空を通過した。2月のことで、大地は濃いグレー。川や湖は白。川が複雑に絡み合い、やがてハドソン湾の磯が現れて、また陸地に。

空は透明な青で、真上は紫。北極圏の表情は刻々変化し、凄(すさ)まじい風景の後に氷結した海が現れた。裂け目が抽象絵画のようだ。そして消灯時間。次に見たのは明け方で、海上に漁船の明かりが一列に点々としていた。

最終氷期にユーラシアと北米は地続きで、人類は現在のベーリング海峡を伝わって西から東へとやって来た。ネイティブアメリカンのオナイダ族は、西洋人に故郷を追われるまでオンタリオ湖南岸に居住していた。

彼らの部族史が口承で伝えられ、継承した米作家ポーラ・アンダーウッドさんが『一万年の旅路』(翔泳社)に記した。地名も年代も出てこないが、著者は世界地図と照合し、中国・東北地方を経て、地続きだったベーリング海峡を渡ったルートを推定。

米プリンストン大など国際チームによる海底堆積物の分析によると、海峡ができたのは1万3000~1万1000年前(小紙1月10日付)。人類が渡って来たのはそれ以前だ。オナイダ族が来た時期も推定範囲が狭まった。