【上昇気流】(2023年1月7日)

うさぎ

大阪市内の小学校行事に「兎(うさぎ)狩り」があった。遠足の一つで、バスで奈良県境の信貴山近郊に行き、小高い丘の上に児童が一列に並んで網を張る。そして先生の合図で一斉に下り降り、兎を追い詰めていく。昭和30年代の話である。

あいにく気流子のクラスは兎を目にすることができなかった。人間の子供より兎の方が一枚上手だったのだろう。意気消沈して帰る山道で地元の人たちが「兎汁」を振る舞ってくれた。実に美味で、冷えた体が一挙に温まった。

本当に兎汁だったのか、定かでないが、おかげで唱歌「故郷」の歌詞の冒頭を長く「兎美味(おい)し、かの山」と思い込んでいた。

兎は頭がいい。何せワニをだまして海を渡ったぐらいだから。が、うぬぼれがあった。本音を漏らして気付かれ丸裸にされた。通りがかったのが大国主命の兄神たち。罰を与えようと考えたのか、海水を浴びよと教え、それに従った兎は皮膚がただれ苦しんだ。ご存じ、因幡の白兎である。

後から来た大国主命は真水で兎の体を洗い、炎症を抑える蒲(がま)の花粉を塗って治された。これがわが国の医療の始まりとされる。医療は因果を問わないのである。あまねく人々に手を差し伸べる。それを施療とも言った。大国主命と共に国造りをした少彦名命(すくなひこなのみこと)は、温泉を用いた治療も教えた。

兎は今では月で餅をついている。今年は兎年で、きょうは最初の満月。温泉に浸ってそれを眺めることができれば、望外の幸いである。