【上昇気流】(2023年1月6日)

破壊されたロシア軍の戦車と装甲兵員輸送車=昨年4月2日、キーウ(キエフ)近郊(AFP時事)

ロシアの侵略が続くウクライナでは、激しい戦闘の中での年明けとなった。東部ドネツク州マケエフカでは、米国提供兵器によるウクライナ軍の攻撃で兵士89人が死亡したとロシア国防省が発表した。ロシアが死者数を個別に発表するのは異例だ。

多くの死者が出たのは、敵の射程圏内で禁止されている携帯電話を使用したためであり、違反者を処罰するという。攻撃は12月31日から1月1日にかけてのことだから、兵士たちは家族や知人に新年の挨拶の電話をしたのかもしれない。それが命取りになった。非情な世界である。

元日放送のNHKスペシャル混迷の世紀「2023巻頭言 世界は平和と秩序を取り戻せるか」で、ノーベル文学賞受賞のベラルーシ作家、スベトラーナ・アレクシエービッチ氏がロシア兵と家族との電話での会話を報告しているが、愕然(がくぜん)とさせられた。

ある女性は兵士である夫に「できるだけ多くの女性を暴行し、ウクライナ人に復讐(ふくしゅう)しなければならない」と叫んだ。夫が「何に対して復讐するのか、私は何もされていない」と言うと「あなたはテレビを見ていないからよ」と言ったという。

ロシア人の多くは侵略戦争の実態を知らされず、「真実が奪われている」とアレクシエービッチ氏は指摘。ロシア社会では戦争反対の声が広がりにくいと予測する。

メディアがプロパガンダの手段と化す悲劇はロシアに限ったことではないが、それにしても暗澹(あんたん)とさせられる報告である。