【上昇気流】(2022年12月10日)

木幡(こはた)の幡祭り

東北では師走になると、平地の雨も山では雪になり、頂上から白い衣を下ろすように冬景色を広げていく。ただ暖かい南風も時折吹く。すると、白い衣は再び山頂付近に押し戻され、そんなせめぎ合いを経て厳冬を迎える。

福島県の安達太良山の麓にある二本松市で今週、「木幡(こはた)の幡祭り」が行われ、烏帽子と白装束の氏子らが色とりどりの五反幡(旗)を掲げて神社にお参りした。国指定重要無形民俗文化財で、天喜3(1055)年の「前九年の役」に由来する。

陸奥・出羽の有力者、安倍貞任(あべのさだとう)と戦って敗れた源氏の数騎が木幡山に立て籠った。そこに一夜にして雪が降り積もり、それが源氏の白旗が連なっているように見えたので安倍の軍勢は戦わずして敗走した。木幡の幡祭りはそんな伝承に基づく。

東北はかつて蝦夷(えみし)が治め、北上川領域の胆沢磐井(いさわいわい)地域に一大文化圏を築いた。その指導者のアテルイは陸奥の政情を語ろうと都に上るが、河内国でだまし討ちに遭った。蝦夷の流れを汲む貞任も戦に敗れ、非業の死を遂げた。

その血筋を継ぐ藤原清衡は、恨みを超えて全奥羽を「仏国土」にしようと平泉に中尊寺を建立し、藤原3代の栄華を築いた。しかし、こうした夢も源頼朝によって壊され、滅ぼされた。

安倍晋三元首相はそんな安倍一族の末裔(まつえい)だと聞く。国土安泰を求めても報われないのだろうか。いや、厳冬の後に春は必ず来る。安達太良山と木幡の幡を見て、そんな感慨にふけった。