
紅葉の季節となった。鮮やかに記憶に残る紅葉の風景といえば、まず京都。寺院で真っ赤に色づいた上品なモミジを見た時、この古の都は自然界まで雅やかだと実感し、古典文学の世界が甦(よみがえ)った。
京都とまったく対照的だった風景は、越後三山を登ったとき。見渡す限り山また山が、あらゆる色彩をぶちまけたように色づき、命の限り燃え立つような野性的な紅葉だ。縄文土器を連想させた。
得難い体験の一つは、米国のニューイングランド地方で見た紅葉で、ハイウエーを行けども行けども色づいた森が尽きなかった。アマースト大学に立ち寄ったら、教員が「いい時に来ました」と木々の色を称(たた)えていた。
植物学者の故松田修さんの原稿を担当した時、「日本は植物の種類がきわめて多い国」と語り、「花の豊富さ」を誇っていた。日本の紅葉が世界的に美しい理由は、樹木の種類が豊富なことと関係がある。
赤、黄、褐色その他、色とりどりなのは、樹木ごとに葉の色彩が異なるからだ。東京の高尾山で「もみじまつり」が行われている。先日行った時も外国人が多かったが、彼らには日本でしか見ることができない自然なのだ。
紅葉は始まったばかりで、見頃はこれから。植物相についていえば、南斜面には暖帯系の常緑広葉樹林、北斜面には温帯系の落葉広葉樹林が広がっている。ケーブルカー高尾山駅付近では特に明瞭だ。紅葉は北斜面でよく見られるから、植物相を知るよい機会でもある。



