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この世に楽土を建設する。そんな次代の国家指導者を育てたい――。「経営の神様」と言われた松下幸之助さんはそう考えて「松下政経塾」を立ち上げた。
野田佳彦元首相はその1期生である。安倍晋三元首相に対する野田氏の品格ある追悼演説を聞いて、目を細めている松下さんが思い浮かんだ。
松下電器産業(現パナソニック)の創業者である松下さんは、電球のソケット作りから身を起こし、家電製品を次々と世に出し、日本人の暮らしをよくすることに腐心した。その原点は嬉々(きき)として奉仕する宗教活動との出会いだった。
それは江戸後期に成立した天理教である。教派神道の一つで、信者は「悪(あ)しきを払うて助けたまえ天理王の命」と唱える。創設初期には「お供え」(献金)がすさまじく、世の人々は「屋敷を払うて田売りたまえ」と嘲ったが、松下さんはその奉仕精神に自らの行くべき道を見いだした。
松下政経塾にある「政経研究所」が2009年に「日本の歴史を踏まえた国家理念」と題する報告書をまとめたことがある。その座長を務めたのが野田氏だった。同書には「日本人の歴史観を正す」の章があり、「連合国側を善として日本を悪とする東京裁判史観が戦後の日本人や精神に悪影響を与えた」と明記している。
安倍氏と野田氏は真正面から対峙(たいじ)する政党に身を置いたが、その歴史観は通底していたのではあるまいか。野田氏の追悼演説にそんな思いを抱いた。



