【上昇気流】(2022年10月14日)

日本国際賞の授賞式に出席したスバンテ・ペーボ氏。コロナ禍で2020~22年の3年分の受賞者が集まった=4月13日、東京都千代田区(AFP時事)

今年のノーベル医学生理学賞は、ドイツ・マックスプランク研究所のスバンテ・ペーボ博士に決まった。ペーボ氏はネアンデルタール人の細胞のDNAを解読したほか、近縁の「デニソワ人」を発見した。

篠田謙一著『人類の起源』(中公新書)によると、DNA解析技術の進歩によって古人類学が飛躍的に発展した。その立役者がペーボ氏だ。古い骨のDNAと現代人のそれを比較するなどして、現生人類(ホモ・サピエンス)がどのように世界に広まっていったか明らかになりつつある。

ペーボ氏は、絶滅したネアンデルタール人とホモ・サピエンスが交雑しており、そのDNAを現代人が数パーセント受け継いでいることを明らかにした。

デニソワ人というのは、ロシア南部アルタイ山脈の洞窟で見つかった3万~5万年前の小指の骨のDNA解析で発見された旧人類。このDNAはパプアニューギニアの人々などに引き継がれているという。

ペーボ氏の研究は知的好奇心は掻(か)き立てても現代人の生活とは関係ないようにも思える。だが新型コロナウイルスのパンデミックの中で、ヨーロッパ人がアジア人に比べ重症化しやすいのは、ネアンデルタール人から受け継いだ遺伝子によるものとの研究成果をペーボ氏は発表している。

篠田氏の著書によると、PCR検査でウイルスの有無を調べる方法も同じ技術によるものだ。DNA解析の進歩は、日本人のルーツなど人文研究にも大きく貢献している。