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安倍晋三元首相の国葬で、友人代表として菅義偉前首相が感動的な弔辞で紹介した岡義武著『山県有朋』(岩波書店)が話題になっている。安倍氏の最後の「読みかけの本」で、菅氏は山縣有朋(やまがたありとも)が盟友の伊藤博文が亡くなった時に詠んだ歌を今の自分の気持ちに重ねた。同書はネット通販などで品切れとなり、岩波は重版を決めた。
安倍内閣で安倍氏の側近を務めた衛藤晟一(えとうせいいち)参院議員は、「正論」10月号への寄稿で、ハルビンで暗殺され非業の死を遂げた伊藤を山縣がうらやましがっていたことを生前、安倍氏が語っていたことを紹介している。
吉田松陰をはじめ、その松下村塾に学んだ志士たちは多く非業の死を遂げた。そのため伊藤は常々、「死ぬときは畳の上では死にたくない」と言っていたが、その通りハルビン駅頭で凶弾に倒れた。山縣は、そのような伊藤をうらやんだのだ。
その長州の先輩たちを、安倍氏はいつも意識していた。祖父の岸信介元首相の晩年を取材したことがあるが、羽織はかま姿の元首相には、志士のような風格が漂っていた。その祖父も、安保騒動の頃、凶刃に襲われている。安倍氏が、伊藤や山縣の逸話を語ったのは、自分もそのような覚悟で政治に臨んでいたからと思われる。選挙遊説中、凶弾に倒れた安倍氏の最期は、あまりに痛ましい痛恨事だ。しかし、安倍氏の日頃の覚悟からすれば、「戦う政治家」にふさわしい最期だったとも言えるかもしれない。
(晋)



