【上昇気流】(2022年9月14日)

ウクライナ南東部のザポロジエ原発を警備するロシア兵=9月1日(EPA時事)

ロシア軍が占拠し軍事拠点化しているウクライナ南部のザポロジエ原発。今回査察した国際原子力機関(IAEA)は、外部電源喪失の可能性や疲労の極みにある現場の技術者らの健康状態に言及し「壊滅的事態が起きかねない」と警告した。

その後、原発と近隣の火力発電所を結ぶ送電線の一部が復旧し、辛うじて外部電源が確保されたが、砲撃が続く限り深刻な懸念は続く。IAEAは同原発周辺に「安全保護地帯」の設置を求めたが、ロシアのプーチン大統領は明言を避けている。

ロシア軍が先にチェルノブイリ原発周辺を攻撃した時、日本のある物理学者は「(同原発が所有する)廃炉や事故処理の技術を押さえ、ロシア国内の原発施設の延命のために利用するのだろう」と非難したが、ザポロジエ原発の占拠はさらに悪質だ。

欧州最大級と言われる同原発に事故が起きれば、国内はもちろん、周辺諸国にも放射性物質が拡散する恐れがある。もしそうなると、戦争の災禍の規模は一気に広がってしまう。

新約聖書にはイエスがサタンから受けた「荒野の誘惑」が記されている。サタンはイエスに世の栄華を見せ“力ある者に屈しろ、現実に目を向けろ”と軍門に下るようそそのかす。イエスは「主なるあなたの神を拝し、ただ神にのみ仕えよ」とその攻撃を退けた。

イエスとサタンとの闘いは、人類の命運が懸かっていた。ザポロジエ原発の帰趨(きすう)をめぐる戦いも同様の試練として受け止めるべきだ。