【上昇気流】(2022年9月5日)

潜水調査艇しんかい

潜水艇を使って日本周辺の深海調査を行っている名古屋大学などのグループが、房総半島の南東から続く小笠原海溝で、日本人としては初めて水深9801㍍の深海に到達した。快挙だ。

深海探索は地球のプレート運動や地震メカニズムの解明のためもあって、日本の得意分野の一つ。海洋科学技術センター(現海洋研究開発機構)が1980~90年代、世界で最高水準の海底地形調査を実施し、有人潜水調査船による世界一の深海潜航記録を持っていた。

小笠原海溝の海底には日本列島の「始まり」が隠されており、その成長過程を探ることができる。造山運動の仕組み、さらに一時、世界的に注目された良質の金、銀が日本に産出した理由なども明らかにされるかもしれない。

もちろん海底資源の探査にもつながり、この海域の底にはハイテク製品に不可欠なレアアース(希土類)などが豊富に眠っていることが次第に分かってきた。海外、特に中国が探査・開発へ触手を伸ばし競争は激しい。

日本は今、月面探査計画を推し進め、小惑星探査では世界のトップクラスの地位にいる。そのせいもあって人々の目線は天空の方へ向きがちで、海中への社会的関心度は、いまひとつ。

しかし今日の巨大科学事業は、国民の理解と注目を得なければ費用も人材も思うように集まらず、ひいては技術進歩も後れを取ることになる。スピード感を持って探査や技術開発に挑んでほしい。海底にもしっかり注意を向けるべし!