【東風西風】生誕100年山下清の文章と映画

大阪戎橋にたたずむ山下 清(1955年(昭和30年))(Wikipediaより)

放浪の天才画家、山下清が生まれて今年が100年目ということで、各地で記念の回顧展が開かれている。山下清といえばその貼り絵が何と言っても素晴らしいが、文章も面白い。

口述筆記をまとめた『日本ぶらりぶらり』(1958年文藝春秋、後ちくま文庫)は、山下の描いたスケッチも多数載っていて、楽しい一冊になっている。「ぼくは放浪しているとき冬はいつもあったかい九州へわたり、ことに鹿児島がすきで五へんもきた」の文章で始まる。なんとも自然の理にかなった行動で、世間的な柵(しがらみ)さえなければ、こんな生活もいいなと、どこかで思わせるものがある。

記録的な叙述は少ないが、山下の心の目に映った昭和30年代の日本各地の姿が確かにそこにある。

一方、山下清といえば一般には、芦屋雁之助が山下を演じ、好評を博した連続TVドラマ『裸の大将放浪記』の印象が強いのではないか。そのドラマ化の先駆けとなった堀川弘通監督の映画『裸の大将』(1958年東宝)を先日観(み)たが、あまり感心しなかった。

この映画で山下を演じた小林桂樹は、毎日映画コンクール主演男優賞を受賞し、彼にとって出世作となる。しかし、作品としては、筋の中に、自衛隊批判が堂々と盛り込まれているのに驚きと違和感を禁じ得なかった。自衛隊を戦前の軍隊の復活と捉えられている。まあそれも時代といえば時代なのだが。

(晋)