
登山愛好家の中には、山の花々が好きだという人が多い。東京都八王子市にある高尾山に登った際、京王線高尾山口駅前の観光案内所に行くと、開花の時期を迎える植物名を教えてくれた。
「高尾山の植物」(7~9月)というパンフレットもくれた。場所の記載された写真が12枚あった。1号路を登って下りて、実際に確認したのはヤマユリ、オカトラノオ、オオバギボウシ、ガンクビソウ。
何度も来ている山だが、ヤマユリは眼(め)にしたことがなかった。高尾登山電鉄の「高尾山やまゆり散策マップ」という資料によると「やまゆり再生プロジェクト」が球根を植え始めて3年目になる。
あちこちで見たヤマユリは実に見事だった。一本の茎に花をいくつもつけて、白い花びらには黄色の線と茶色の点が散りばめられ、貴婦人の風格があった。この植物は八王子市の市花で、近年、減少しているそうだ。
万葉の歌人、大伴家持は、越中に赴任してきて田舎暮らしを始める。つまらない生活だったので、楽しみのために野のユリを庭に移し植え、咲いた花を見る。すると美しい妻を思い出し、後に会おうと心を慰めたという。
当時の人はユリの花を「花笑み」と言って、女性が笑う姿に例えた。花と人との交流は昔も今も変わらないが、ユリの球根は福井県若狭町の鳥浜貝塚で縄文前期の炭化したものが見つかっている。食材として使う歴史は5000年に及び、現代人もうまいと感じるのだ。



