増え続ける認知症 韓国から

こちらで懇意にしているある知人の異変に気付いたのは昨秋だった。夕食を一緒にする約束をしていたが、待ち合わせ場所になかなか現れず、電話をすると「目と鼻の先まで来ている」と言う。しかし、彼が姿を現わしたのは、それからさらに30分後のことだった。

今まで約束時刻に遅れたことはただの一度もない。今春に再会した時は、挙動が遅いことに驚かされた。「もしや…」と思ったが、いつものごとく冗談交じりの会話に花が咲いた。

ところが、それから3カ月後に再び会うと、嫌な予感は的中していた。一緒に来た職場の元同僚から「残念だが、彼は若年性認知症のようだ」と告げられた。定年退職までの数カ月間、見かねた同僚たちが彼の仕事を手伝っていたほどだという。

その日、彼はたびたびスマホの画面に見入っていた。尋ねると、「息子がね、ボケ防止にいいゲームだからって言うから」。自分がどういう状態なのか自覚できていない様子が痛々しかった。

仕事のストレスが原因なのか。大のお酒好きが災いしたのか。一家の大黒柱として何十年も家族を養い、さあこれから悠々自適な老後を楽しもうとしていた矢先の出来事だった。変わっていく彼の様子を見るたびに、無性に寂しい気持ちに襲われる。

今は以前と変わらず彼に接してあげたいと思うのが精一杯だ。最新の統計によれば、韓国高齢者の10人に1人は認知症。今後、その割合は増え続けるとみられている。(U)