
11月に十三代目市川團十郎を襲名する市川海老蔵さんが主役・団七九郎兵衛を演じる「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」を東京・銀座の歌舞伎座で観(み)た。元禄11(1698)年冬に大坂長町裏で起きた殺人事件を基にした芝居だ。
この日の1幕目「住吉鳥居前」は、喧嘩(けんか)沙汰から牢(ろう)に入れられていた団七が出牢し、家族と対面する場面。囚人服の団七は神社前の床屋で髪を整え、浴衣に着替えて颯爽(さっそう)とした男振りで再登場する。この変身ぶりが見どころだ。
演劇評論家・渡辺保さんは『歌舞伎手帖』で「団七という男には夏の風の爽やかさがある」と書いている。その爽やかさに欠かせないのが、白地に大きな紺の模様の入った浴衣だ。市川左團次さん演ずる侠客・釣舟三婦(つりふねのさぶ)も、白地に紺の縦縞(たてじま)の入った浴衣で登場。いかにも涼しげで、目で涼を取っている感じがした。
最近は女性の浴衣で、赤やピンク、あるいは緑色のものも見掛ける。その日も歌舞伎座へ行く途中、地下鉄で緋色の浴衣を着た若い女性を見て驚いた。しかし1幕目を見ながら、やっぱり白や紺のオーソドックスな色柄が涼しげで粋だなと思った。
扇風機やエアコンのない昔は、打ち水をしたり、軒先に風鈴を吊(つる)したりするなど、工夫して暑さを凌(しの)いできた。
吸水性の高い綿を生地にした浴衣も、色彩に寒色を使って見た目にも涼しいものにした。地下鉄で見掛けた女性の浴衣の緋色は、赤系でも寒色の感じがしたから、悪くはないのかもしれない。



