続いてほしい日本の安全神話 ブラジルから

「最近の日本はいったいどうなっているのだ」。久しぶりに会った日系人の知人から、安倍元首相を襲った凶行に驚きと悲しみが混ざったような声を掛けられた。

知人は日本に10年近く住んだことがあり、現在はブラジルでビジネスを成功させている。仕事に忙しい以外は何不自由ない生活だが、筆者と会うたびに「人々が誠実で安全な日本にもう一度住みたい」と強調してきた。

筆者自身は、幸運なことにブラジルで強盗などに襲われたことはないが、家族は拳銃強盗などの被害に幾度も遭っている。「携帯電話は人目があるところで出さない」「現金やカードは分散して持つ」などは基本だ。

一度、サンパウロの街中を歩いている時、日中で人通りがあるにもかかわらず、目の前を歩いていた男性が強盗にカバンを奪われた。「事件に遭わずにこられたのは運が良かっただけだ」と気の緩みを戒めた。

それだけに、日本の社会の安全さには、本当に感動することが多い。周りに特別気を配ることもなく、街中を歩くことができる国など、そうあるものではないからだ。

ただ、近年の日本では、新幹線内の無差別殺傷や今回の元首相襲撃など、社会を揺るがすような事件が増えている印象がある。

凶悪犯罪の発生率では、日本は世界で最も安全な国の一つだ。今回の事件が「日本の安全神話が崩れた日」として記憶されるようにはなってほしくない。凶悪犯罪に苦しむ国に住む筆者の切実な願いだ。(S)