【上昇気流】(2022年5月30日)

作業台船「海進」に引き揚げられ、海面に姿を現した観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」=26日午後6時56分、北海道斜里町沖

今、企業が国際的にその価値を高める方途に無形資産の投資・形成の実践がある。蓄積された企業文化や技術を自社だけでなく、社会的価値の創造のために役立てること。広い意味での社会的イノベーション活動が特に大事だという。国の立場で言えば、危機管理能力の向上ということになろうか。

北海道・知床半島沖の観光船「KAZU I」の沈没事故の捜査が行われているが、名所の観光でずさんな船の運航がまかり通っていたという事実に、改めて衝撃を感じる。わが国は海に囲まれた風光明媚(めいび)な島国で、海岸線は約3・4万㌔。世界で6番目の長さだ。

海岸線に沿っての観光は、どこに出向こうが安全性が確保されている、たとえ事故が起きても生命を損なうような事態にはつながらないという安心感は、観光立国の大きな価値であるはず。

海上保安庁の救難ヘリコプターが事故現場の海域に到着したのは通報から約3時間後で、既に船が沈没していたというのも残念だ。事故が起きることを想定して、救援のシミュレーションを行い、そのための救難機配置場所を計画的に決めておいてこそ、いざというときに役立つ。

海保の役割は海難救助、海洋汚染の防止、海上の治安維持、船舶交通の安全確保など多岐にわたる。国の危機に対処するため、沖縄県・尖閣諸島沖の領海警備や不審船の取り締まりなどは特に重要だ。

海保の機能強化こそ、まさに国の無形資産を高める方途である。