地域の宝ソメイヨシノの古木を守る

秋田県大館市 釈迦内小が住民と共同プロジェクト

釈迦内小の校庭に咲く桜(写真上)と、小笠原樺細工工房の小笠原さんの説明を聴く3年生の児童ら(共に釈迦内小提供)

秋田県大館市の釈迦内(しゃかない)小学校の敷地などに立ち並ぶ約30本の桜の古木を守り継いでいこうと1月、児童と地域住民が、枝切りや施肥などに取り組み樹勢を回復させる共同プロジェクトをスタートさせた。地域の宝に対するこの取り組みは、ふるさと教育として効果が見込まれるほか、学校と地域のつながりを一層強めると期待されている。(市原幸彦)

枝切りなどに取り組み、樹勢回復へ

学校と地域の連携強化に期待

釈迦内小には、古いもので120年以上前に植えられたと伝わるソメイヨシノが30本以上残っている。大半が、てんぐ巣病にかかり、徐々に花の数が少なくなってきた。また、同校周辺の有志でつくる「桜を守る会」が、会員の高齢化に伴って一昨年で活動を休止。桜の保全に向け、同校を中心とした新たな枠組みを考える必要に迫られていた。

同校によると、古いソメイヨシノは明治35年に学校が現在地に移転したことを記念し植えられたと伝えられている。中には高さ15㍍近く、幹回りが4・5㍍超の大木もある。児童や教職員、地域住民にとって桜は愛着ある存在だ。十数年前まではライトアップも行われ、地域住民が夜桜を眺めながら花見を楽しんでいた。

同校は、樹勢回復を図る「桜三心(前向きな心、美しい心、挑戦の心)学校の桜を守るンジャー」と銘打ったプロジェクトを始動。授業の一環として位置付けた。住民には病気にかかった部分や余分な枝を取り除く剪定(せんてい)作業を依頼。児童は定期的に肥料を与えるほか、樹皮を使って工作を行い、桜に親しんでいる。

プロジェクトの皮切りとして3年生のメンバー約40人を集め、昨年12月に仙北市の樹木医で全国桜の名所づくりアドバイザーの黒坂登さん(74)や小田春幸・元釈迦内公民館長(75)を招いた講話を実施した。同校の担当者は「木を元気にするには、数年かかるので、いろいろ世話をしながら卒業まで元気な桜になってほしいと3年生にお願いしました」と語る。

最初に、学校の向かいに住む小田さんから、学校の桜の歴史と思い出を話してもらった。その後、黒坂さんらが剪定の講習を行った。病気にかかったり枯れたりした枝を見つけて切り落とすノウハウを地域住民や児童の保護者らに説明した。黒坂さんは「これほど多くの桜の古木が残る学校はまれなのでは。ソメイヨシノの寿命は一般的に60年程度と言われるが、手入れ次第で延命は可能とされる。しっかり手入れをすれば、多くの木は徐々に状態が改善する可能性がある」(釈迦内小広報紙「釈迦ナイス2022」No.26)と言う。

学校の桜を守るンジャーは3月、「樺(かば)細工」に挑戦した。桜の樹皮を材料としたアクセサリー作りだ。講師は市内の小笠原樺細工工房の小笠原さん。樺細工製品や作り方などを分かりやすく教えてもらった。桜の樹皮を少しずつ削り、薄くしなやかに加工していく。「子供たちは、桜ってすてきだねとかいろいろ感動しながら、すっかり気に入って樺細工熱は急上昇です」と同校担当者。

この桜の保全活動を知った地域の事業者からは、必要な機材や費用を提供したいとの申し出があるという。「当事者として関わる人が増えるのは学校にとって心強い。教職員や住民が剪定作業に習熟すれば、同じように敷地内の桜を守りたい他の学校に広めることもできそうです」(学校関係者)。

もともと釈迦内地域では10年から、ヒマワリを育てて種を搾った油を販売する「サンフラワープロジェクト」が釈迦内小児童を含む地域ぐるみで行われ、注目を集めてきた。自分たちでひまわりの種をまくところから収穫・種取り、そしてその種を使用したひまわり油やドレッシングの販売までを一貫して行っている。ウクライナ支援として3月、収益金のうち10万円をウクライナ大使館(東京)に寄付した。

また、子供たちはひまわりを核としたSKIP(釈迦内キッズイノベーションプロジェクト)に取り組み、ひまわりアンバサダーとして地域に元気と明るさを届けている。地域一体となってプロジェクトを推進してきた経験を、桜の保全にも生かしたい考えだ。

児童は今後、ヒマワリ油の搾りかすで作った肥料を桜に使うなど、同校は循環型の仕組みも模索している。同校では「多様な視点から桜を教材としていきたい。地域の宝と位置付けられている桜を次世代に継承する試みで成果を挙げていきたい」としている。