利用者急増、過去最多の見通し
災害伝承館や震災遺構整備など充実
と、復興に挑戦する人々(ヒューマン)と対話する高校生ら(同下)=福島県観光交流課提供.jpg)
東日本大震災と福島第1原発事故に見舞われた福島県で今、復興の歩みや現状を知ってもらう学びの旅「ホープツーリズム」が注目されている。交流人口拡大や風評・風化対策を目的に、県が6年前に始めた旅行企画で、今年度県内を訪れた利用者は7月末時点で7000人余に上る。去年の同じ時期のおよそ4倍となり、過去最多となる見通しだ。(市原幸彦)
学校教育旅行や企業研修など形態多様化
「福島のありのままの姿(光と影)」を「見て」「聞いて」「考えて」もらう「ホープツーリズム」は、複合災害の教訓等から「持続可能な社会・地域づくりを探究・創造する」福島オンリーワンの新しいスタディーツアープログラムだ。県観光物産交流協会などが多様なツアー商品や周遊コースの企画を立ち上げ、運営に当たっている。
個人旅行も含め多様な形態がある。学校の教育旅行や企業の研修を中心に、昨年度は1万5000人余が利用した。増加の理由について、県は、今年4月以降に新型コロナウイルスによる行動制限が無かった上、双葉町の「東日本大震災・原子力災害伝承館」や、県内初の震災遺構として浪江町の請戸小学校が整備されるなど、ツアーの要となる施設の整備が相次いだことが影響したとみている。
世界で類を見ない複合災害を経験しながらも、なお前へ進もうと挑戦する人々を「ヒューマン」と呼んでいる。彼らとの対話を通して「インプット」。そして教訓等を自分事としてどう生かすのか探究・創造する「アウトプット」だという。この一連のプログラムにより、アクティブラーニングの手法を用いた「主体的・対話的で深い学び」を実現する。
1日のツアー終わりのワークショップでは、さまざまな社会課題(人口減、高齢化、地域の衰退、エネルギー問題等)は「福島だけの問題」ではなく「日本社会や地域が抱え、解決すべき問題」であるという視点に立ち、自分たちがどのような未来を創っていきたいかなどについて議論する。
テーマは多彩だ。震災・原発事故、津波被害、避難指示解除後の地域、環境回復、除染、エネルギー、農林水産業、新産業、防災・減災、教育・人材育成、観光・交流その他。もちろん、県の中部の中通りや、西側内陸の会津方面にも、それぞれの特色を生かした歴史学習・伝統文化体験、自然体験・環境学習、農家民泊などのモデルコースがある。原子力災害伝承館(双葉町)によると、4月からの入館者数は5万7000人を超え、昨年度の年間約5万8000人を早ければ月内にも上回るペースだという。
参加した高校生からは「現地で見学したフレコンバッグ(除染土壌を収納した袋)の数の多さに衝撃を受けた。村の婦人会で活動する女性住民の講話を受けて現地訪問の価値を感じた」「復興の傍観者ではなく関係者になりたい」「もっと福島のことを知りたい」などの感想が寄せられている。また企業の研修に参加した人からも「今後の産業を支える拠点が集まっていて、同県が持つポテンシャルの高さを感じた」などの意見が寄せられた。
復興庁でもこのほど、原発事故に伴う避難指示の対象となった12市町村が「10年越しに最新かつ充実した観光情報をまとめられた」として、55件の観光資源マップなどにまとめ、同庁のホームページに公開、地域の魅力紹介やモデルコースを掲載した。
県観光交流課では「福島の現状を若い世代に直接見てもらうことに意味がある。密による感染リスクから首都圏、関西など大都市部への旅行を回避する動きは今後も続く可能性がある。県の独自色や付加価値が高まれば、旅行先選びでの大きな動機付けになるはずだ。本県ならではの魅力づくりに一層力を注いでいきたい」としている。



