地域発展にも貢献、注目の提案の書
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北海道と東北各県の小学校教員らで構成する「函館・青森授業づくりの会」(藤原友和代表)が4月、『オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業』(小学館、四六判、208ページ)を出版した。道徳力を高め、地域の発展にも貢献できる教材の開発や、活用法について解説したもので、マイルストーン的な提案の書として注目されている。(市原幸彦)
「函館・青森授業づくりの会」が出版
18本の授業例紹介、実践のヒントに
地域教材を活用した道徳実践に関して、同会は平成30年から会合を始め、以来年に2度ずつ津軽海峡を挟んだ両地で地域素材を教材とした模擬授業や検討会を重ねてきた。編著者の藤原友和氏、駒井康弘氏とその他メンバー15人による渾身(こんしん)の1冊だ。多様な授業実践例のほかに、他教科等との連携のあり方も紹介している。
道徳科の授業をつくる上で、「教科書そのままでは授業をしにくい」「偉人の伝記はあまりに立派すぎたり、スケールが大きすぎたりする」「どこか空々しい授業になり、子供たちからホンネが出てこない」といった悩みを抱えている教員は少なくない。

「地域社会を創造してきた先人の人となり、功績について知ることは、自分の生地に愛着を持つことにつながる。地域の伝統的な祭事、行事などにも単に参加するだけでなく、その歴史や謂れを知ることで守りたいという意識も育つ。これら意識を芽生えさせるのが道徳科の授業だ」(序文)とする。
そこで本書が勧めるのが「独自開発の地域教材」を活用する授業だ。本書の第1章の項目は「道徳は地方再興を旨とすべきである」。身近な地域教材を使うと、テーマが子供たちにとって「自分ごと」になり、真剣な議論へと導かれ、「将来も地域に留まり、地域に貢献しながら生きる子が育つ」など、地域教材を扱うことの良さについて整理している。
2章では、独自教材の開発法とその活用法について解説。3章では気鋭の教師たちの授業実践例をビジュアルと共に紹介している。そして最終章では、こうした道徳授業を他教科・他領域とつなげ、より豊かな学びを生み出すことを目指したダイナミックな実践例を示す。
本書では授業実践例を「ひと」「もの」「こと」に分類。さらに、それらをそれぞれ「清涼剤型」「葛藤型」「自分事型」の活用類型に分けた。その実践例と、小学校の総合的な学習の時間や高校の国語科での地域創造型実践例が掲載され、開発プロセスの全体像を分かりやすくまとめている。
実践例は18本。これら具体的な授業例をヒントにして、勤務校に即した道徳の授業実践が、各地で展開されることが期待されている。「教員は多忙だが、時間と労力をかけてつくった教材は子どもの心に響きます」(序文)
《ひと》を教材化した実践例(6例)には「貴重な資料を守った図書館人・岡田健蔵」(清涼剤型、函館市)や「幸せな生き方とは――宮沢賢治」(自分事型、岩手県花巻市)など。
《もの》の実践例(6例)には、「落ちこぼれ水族館から世界一の水族館へ」(清涼剤型、山形県鶴岡市)、「伝統を大切にするとは~白河だるま~」(葛藤型、福島県白河市)など。
《こと》実践例(6例)として、「ねぶたまつりを守るためにできること」(自分事型、青森県弘前市)、「『捨てる』~北黄金貝塚に暮らした人達の精神性から~」(葛藤型、北海道伊達市)など。
これを読んだ各地の教員らから、以下のような声が寄せられている。
「発問構成と見取り図は地域教材に限らず広く道徳の授業で応用可能だ」「道徳の肝となる〈見える言動から見えない心をみえるようにする〉ことが押さえられているので、第3章の実践例もその視点をもって授業をイメージしながら読むことができる」「地域教材を活用する意義を地域コミュニティーという観点から述べ、学校、子ども・家庭、地域の3つの風船モデルでその効果をわかりやすく示している。ここだけでも一読の価値がある」
同会では「実に多様な教材や指導法が集まった。それぞれの教員の経験や価値観の相違を超えて、人として生きていくために大切にしたい価値が見えてきたように思う。どのような普遍性があるかは研究上の大問題だが、日々の授業の中にこそ、そうした価値を見つけ出していきたい」としている。



