高性能林業機械の模擬操作可能な全国初のシミュレーター室完成へ

国産木材の需要拡大とともに、林業復活が期待されている中、福島県の森林の未来を託す杣人(そまびと)(林業従事者)のための「林業アカデミーふくしま」が4月、郡山市の県林業研究センター内に開講した。1期生となる研修生14人が現場作業や森林経営の学びに熱心にいそしんでいる。(市原幸彦)
給付金制度で研修終了後を支援
JAEAと連携、放射性物質に関する取り組みも
研修期間は来年3月までで、1年間の長期研修だ。今春高校を卒業した10代から社会人経験のある50代までが参加。ほとんどが林業未経験者だ。研修では、座学に加え、実習林での測量、下刈り、間伐などに取り組み、最先端の林業技術を学ぶ。講師として福島大や岡山大の教員、森林総合研究所の職員らを招いた。研修生は講師に質問を繰り返すなど積極的な姿勢がうかがえる。
カリキュラムは随所に工夫が凝らされている。チェーンソーやバックホーなどを取り扱う資格が取得できるほか、最新のICT(情報通信技術)機器を活用した先端技術にも触れる。「労力とともに労災リスクの低減につながり、若い人材を引き寄せるのにも生かせる。林業というとガッチリした人をイメージしますが、重機の仕事でも筋力や体力は男女の差はありません。年21日間の就業体験があり、林業に携わるイメージを養えるのも貴重です」と事務局。
林業アカデミー、林業大学校などの林業学校はこの10年来、岩手県、広島県、徳島県はじめ30カ所以上の自治体でも活発に始まっている。東日本大震災による原発事故を経験した福島県では、日本原子力研究開発機構(JAEA)と連携した独自の取り組みがあるのが特徴だ。
5月19日、20日は放射性物質対策の講義が行われ、放射性物質に関する基礎的な知識を学んだ後、研修生は実際に林内の放射線量を計測したり、JAEAの調査場所などを見学したりしながら、理解を深めた。事務局では「さまざまな誤解や風評被害等があり、これから県で働く研修生たちには正しい知識を身に付けてほしい」と願っている。
8月にはセンター内に県産材を使った研修施設が完成する。座学研修を行う「研修棟」と屋内での実技研修が可能な「実習棟」を整備するほか、研修に使用する各種実習機材を配備する。特に、高性能林業機械の模擬操作ができるシミュレーター専用室があり、全国の林業大学校・アカデミーで初だ。
研修生からは以下のような声が寄せられている。唯一の女性、池田結さん(西郷村、高卒)は「恵まれた環境で養う高い専門性を活(い)かし、社会に貢献したい」、池田竜太さん(塙〈はなわ〉町、大卒)は「最先端を学び、親の林業会社を継ぐだけでなく、林業の素晴らしさを多くの人に伝えたい」、大原武男さん(埼玉県)は「前職は製造業の事務職で、ネットで知って応募した。全国初のシミュレーターの操作が楽しみ」などと語っている。
研修終了後、1年以内に林業分野に就職する意思を持っている研修生に対し、年間最大142万円の給付金制度(国の給付金制度を活用した研修生の支援)がある。年4回のインターンで研修後の就職をバックアップする。
現在、県内林業の先行きは不透明だ。新規就業者は、原発事故発生前の平成22年は242人だったが、23年から減少に転じ、令和2年は78人に落ち込んだ。経営の大規模化を図り、収益性を高めることで働きがいのある産業に育てていくことが求められている。
事務局では「木材の安定供給だけでなく、地球温暖化対策や治水など林業が果たす役割は大きい。林業の成長産業化の実現と中山間地域の活性化につなげていけるよう、新たな林業を創造する担い手を数多く養成していきたい」と意気込んでいる。



