【上昇気流】(2023年4月16日)

作家、村上春樹氏の新作長編『街とその不確かな壁』(新潮社)が発売された。長編としては『騎士団長殺し』以来6年ぶり。その舞台の一つが、福島県南会津町にある図書館ではないかと地元で話題を呼んでいる。

福島民報によれば、村上氏と郡山市出身の作家、古川日出男氏との親交が深いからとの指摘がある。地元ファンも「聖地巡礼」で観光客が増えるのではないかとの期待を寄せている。

村上氏と言えば、毎年ノーベル文学賞の候補としてマスコミに取り上げられることが行事化している。今年も、好むと好まざるとにかかわらず話題になることは間違いない。

世界的な読者を持つ村上氏だが、なかなか受賞には至らない。本人も複雑な心境だろう。よく知られていることだが、村上氏は日本の著名な文学賞である芥川賞を受賞していない。

その意味では、ノーベル文学賞を受賞しようがしまいが、世界的な評価はそう変わらないだろう。ただ、ノーベル文学賞のこれまでの経緯を見れば、政治的なメッセージを高く評価する面があるから、その点、政治性が希薄な村上氏の受賞は今後も厳しいかもしれない。

日本で初めてノーベル文学賞を受賞したのは、川端康成。代表作に『伊豆の踊子』や『雪国』などがある。『伊豆の踊子』は、鬱屈(うっくつ)した思いを抱いて伊豆を旅する主人公の学生と踊り子の淡い交流が今でも目に浮かぶほど。昭和47年のきょうは、川端が亡くなった日である。