【上昇気流】(2023年4月15日)

黄砂

黄砂に初めて遭遇したのは、40年ほど前の北京でのことだ。外国人用の宿舎だった北京友誼賓館で朝、目覚めると、枕元がざらざらする。不思議に思って窓辺に立つと、小さな砂粒がガラス窓に張り付いており、遠景は黄色く霞んでいた。

街にはストッキングを頭からすっぽり被った女性があちこちにいる。まるでギャングの格好だが、黄砂対策に有効だという。北京近郊にある万里の長城「八達嶺」に行くと、そこは砂漠の中の城壁だった。今では緑が増えたが、さらに北方の内モンゴル自治区には砂漠が広がる。

今週、日本列島に飛来した黄砂はそんな内モンゴルからもたらされた。黄砂はひとえに共産党政権による人災である。内モンゴル出身の人権活動家ショブチョード・テムチルトさんはそう訴えている。

共産党は内モンゴル人を強制的に都市部に移住させ、「自然環境を回復させる」と称して放牧を禁止し、そこに大量の漢人を移住させ開墾させた。それで逆に自然が破壊され、本来の美しい草原は失われ、内モンゴル全体の6割が砂漠と化した。

ところが、一昨日の朝日新聞の1面コラム「天声人語」は「とかく気色ばむことの多い日中関係だが、砂には国境もない。一晩の差で霞んだ空をともに見上げる近さを思う」とノー天気にも黄砂に親近感を抱いている。

あばたもえくぼ。いや、「面々の楊貴妃」と言うべきか。好きになると、相手の欠点が見えなくなり美しく見えるという意味である。