【社説】海洋酸性化 危機認識し官民挙げ対策を

UnsplashMatt Hardyが撮影した写真

大気中の二酸化炭素(CO2)が増え、海水に溶け込む量が増えることによる海洋の酸性化が進んでいる。海洋酸性化は地球温暖化を加速させるばかりでなく、海洋生物に深刻な影響を及ぼすことが懸念されている。官民で対策に本腰を入れて取り組まなければならない。

食物連鎖に深刻な影響

人間活動によって放出され続けるCO2は、海が大量に吸収している。その吸収量は全体の20~30%に上り、また海が蓄積するCO2の量は大気中の50倍とも言われる。海水に溶け込む量が増えると、海水の水素イオン濃度指数(pH)が低下し、海が酸性化する。

表面海水中のpHは産業革命以降の大量のCO2の排出によって下がってきた。このまま排出量が増え続けると、海洋にどのような影響を及ぼすか。米海洋大気局(NOAA)のシミュレーションによると、世界全体の海水のpHは現在約8・1だが、2050年に7・9、80年に7・8、2100年には7・7に達すると予測されている。

海洋酸性化が進むと海洋のCO2を吸収する能力が低下し、地球温暖化が加速される。だが、海洋酸性化が海洋生物にもたらす悪影響は、それに劣らないか、それ以上に深刻なものとなる恐れがある。

植物・動物プランクトンやサンゴ、貝類、甲殻類など、さまざまな海の生物は炭酸カルシウムの骨格や殻を作っている。この炭酸カルシウムは炭酸イオンとカルシウムイオンが結合して形成される。しかし、海洋酸性化によって炭酸イオンが減少することで炭酸カルシウムの殻などの形成が難しくなるのだ。

植物・動物プランクトンの減少は、それを餌にしている小型の魚類などの減少、さらに小型魚類を餌にしている大型の魚類の減少と、食物連鎖の中で深刻な影響を与える恐れが高い。海洋酸性化による生物への影響は、世界各地で報告されている。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「海洋と雪氷圏特別報告書」(2019年)によると、このまま海洋酸性化が進めば、2100年には最悪の場合、海の生き物の20%近くが消滅するとも予測されている。人類にとって大きな危機と言わねばならない。

海洋酸性化を抑えるための方法は、第一にCO2の排出量を減らすことである。大気中に放出されるCO2を海洋が吸収し、ぎりぎり地球環境のバランスを維持してきたが、それも限界に近づいている。そのことをわれわれは、はっきり認識しないといけない時に来ている。

より積極的な対策としては、海中のCO2を吸収するアマモや海藻を増やすことだ。ベトナムでは、CO2の吸収力が高いマングローブの植林が国連の支援を受けて進められている。

CO2の排出削減を

CO2の排出削減は、生命の源であり地球環境のバランサーの役割を果たしてきた海を守るためにも、実現しなければならない人類の課題だ。とりわけ、水産資源を多く消費し、海の恩恵を受けてきた日本がその先頭に立たなければならない。官民挙げての国家的なプロジェクトとして取り組むべきだ。