
放映中のNHK連続テレビ小説「らんまん」は、高知県出身の植物学者、牧野富太郎をモデルにしている。美しい草花と共に生きた、波瀾(はらん)万丈の人生をオリジナルストーリーで描いていく。
ドラマのモデルになったのも、その知名度にあるが、活動が学者の世界にとどまらず、植物愛好を趣味とする人々の全国的ネットワークをつくり上げた教育者、知識の伝達者でもあったからだ。
富太郎の植物認識は、視覚によるだけではなかった。『牧野富太郎と植物画展』(毎日新聞社)によると、野外観察では形や色だけでなく、匂いや味も覚えておくよう指導し、猛毒のある植物さえ口に含んだそうだ。
東大で分類学の野外実習を担当していた時、学生が先生を試そうと、ある植物の根を見せて、それが何か当てるようにいう。富太郎は観察してから噛(か)んで「北の植物か南の植物か」と尋ねる。
学生が「南だ」というと「グンバイヒルガオ」と答えた。まさしく九州以南に産するそれで、決め手は根がサツマイモの味がしたことだという。1957年、95歳で亡くなったが、長い間、業績目録は作られなかった。
標本の整理がなされていなかったからだ。『牧野富太郎の植物学』(NHK出版)の著者、田中伸幸さんは、全標本が初めて他の研究者によって研究できるようになったのは2021年7月のことだという。没後64年。標本点数や学名の数など、過去の数字に根拠がなかったことが判明する。



