ローマ・カトリック教会最高指導者フランシスコ教皇(86)は13日、在位10年を迎えた。聖職者の未成年者への性的虐待問題の多発、バチカン銀行の不正問題など多くの不祥事を抱え、教会への信頼感は大きく揺れている。教皇は教会の刷新に乗り出してきたが、教会内の保守派の抵抗に遭遇し、改革の成果はまだ見えないようだ。(ウィーン・小川 敏)
コンクラーベ(教皇選出会)は2013年3月13日午後、5回目の投票で新教皇を決定した。アルゼンチン出身のブエノスアイレス大司教のマリオ・ベルゴリオ枢機卿(すうききょう)(現フランシスコ教皇)が選出された瞬間だ。南米出身の教皇選出は初めてだった。
コンクラーベに参加した枢機卿の中でも、ベルゴリオ枢機卿を知っていた者は多くなかった。文字通り、サプライズだった。
フランシスコ教皇が選ばれた理由について、当時のバチカン・ニュースの説明によると、「コンクラーベ開催前の準備会議(枢機卿会議)でベルゴリオ枢機卿が教会の現状を厳しく指弾し、『教会は病気だ』と激しく批判した。その内容が多くの枢機卿の心を捉え、南米教会初の教皇誕生を生み出す原動力となった」という。
フランシスコ教皇は教会の刷新を訴えた演説の中で、「自己中心的な教会はイエスを自身の目的のために利用し、イエスを外に出さない。これは病気だ。教会機関のさまざまな悪なる現象はそこに原因がある。この自己中心主義は教会の刷新のエネルギーを奪う。二つの教会像がある。一つは福音を述べ伝えるため、飛び出す教会だ。もう一つは社交界の教会だ。それは自身の世界に閉じこもり、自身のために生きる教会だ。それは魂の救済のために必要な教会の刷新や改革への希望の光を投げ捨ててしまう」と述べている。この内容がコンクラーベに参加した枢機卿たちの心を捉えたわけだ。
就任以来、貧者の救済に頻繁に言及するため、「教皇は南米の神学といわれる解放神学の信奉者ではないか」という声が聞かれた。イタリアのメディアは、教皇を「革命家」と報じた。華美な教皇宮殿には住まず、簡素な住居に寝泊まりし、質素な生活を好んだ。南米出身の教皇は貧者の聖者と呼ばれたアッシジの聖フランチェスコを尊敬し、その名にちなんで教皇の名にフランシスコと付けた経緯が知られている。
聖職者の性犯罪防止に積極的に関与する一方、バチカン銀行の不正投資問題でも銀行の組織編制、資金の動きの透明性を高める人事改革を実施した。一方、①聖職者の独身制問題②女性聖職者の抜擢(ばってき)③平信徒の教会参加の促進④性的少数派の同性婚問題などでは、積極的に発言してきたが、解決策はなかった。その点、ベネディクト16世時代と大きくは変わらない。
フランシスコ教皇の「有言無実行」について、バチカン・ウオッチャーからは「バチカン内の保守派の強い抵抗があって、改革案を実行できない」と受け取られている。例えば、聖職者の独身制廃止を実行すれば、教会側は巨額の資金を聖職者の家庭を維持するために投資せざるを得なくなるから、教会運営に支障が出てくる。言うのはたやすいが、実行は難しいわけだ。また、性的少数派への受け入れ問題や女性の聖職者任命などでは、コンセンサスがないまま改革を実行すれば、教会が分裂する危険性が出てくる。
「私たちの教会は何かが壊れている」。これは、イエズス会のアンスガー・ビーデンハウス氏が南ドイツ新聞とのインタビューで述べた言葉だ。86歳と高齢のフランシスコ教皇に教会内でまだコンセンサスがない改革を期待することは少々酷なことかもしれない。在位10年。既に前教皇ベネディクト16世より長い。持ち時間はもはやそう長くない。バチカンでは保守派と改革派の間で既にポスト・フランシスコへの主導権争いが始まっている。



