【社説】習氏の訪露 「平和の仲介役」とは呼べぬ

1日、モスクワで、共同声明の署名式に臨み握手する中国の習近平国家主席(左)とロシアのプ ーチン大統領(EPA時事)

中国の習近平国家主席がロシアを訪問し、プーチン大統領と会談してウクライナ情勢などを話し合った。

習氏の訪露は、ロシアのウクライナ侵攻後初めて。2日間の会談を終え両首脳が署名した共同声明では、中露関係が「歴史上最高のレベルに達し」たと両国の緊密な関係を誇示するとともに、中露が米欧に結束して対処する姿勢を強く打ち出した。

 共倒れ避けたいのが本音

また「対話」によるウクライナ問題の解決を説き、米欧の軍事支援停止を訴えたほか、対露制裁に反対するなどロシアの主張に中国が理解を示す一方、「一つの中国」原則を尊重し台湾独立に反対することを確認。米英豪が進める原子力潜水艦配備計画に懸念を示すなどロシアも中国に配慮した。さらに、習氏がプーチン氏の年内訪中を招請するなど中露連携を強調する演出が目立った。しかし、会談の内容はどうであったか。

今回の注目点は、中国がウクライナ戦争にどれだけ深く関与するかにあった。一つは、停戦に向けた仲介工作に乗り出すか。いま一つは、ロシアが求めている武器や弾薬の支援に応じるかであった。だが共同声明では、米国を警戒したためか、ロシアへの軍事支援に言及がなかった。和平についても、習氏は具体的な提案を示さなかった。緊密な関係を強調し、ロシアを支える姿勢を見せつつも、共倒れを恐れ一定の距離を取ろうとする中国の本音が透けて見える。

共同記者発表で習氏は「中国は客観的で、公正な立場で積極的に和平交渉を促していく」と述べたが、中国の立場は公正とは言い難く、ロシア寄りだ。プーチン氏は「中国が2月に示した12項目の和平提案の多くはロシアの立場と一致し、西側諸国とウクライナが前向きに取り組めば平和的解決の基礎となり得るが、その動きはまだ見えない」と責任を転嫁し、侵略の継続を正当化した。和平交渉が動き出す可能性は乏しい。

中国は今月、長年敵対してきたイランとサウジアラビアを仲介し、関係修復を実現させて世界を驚かせた。習氏訪露は、中露連携で中国包囲を進める米欧に対抗するとともに、中東に続きウクライナ問題でも「平和の仲介役」として振る舞い、責任ある大国のイメージを世界に印象付ける狙いがあった。

しかし、中国はロシアのウクライナ侵略を一度も批判せず、軍の撤退も求めようとしない。また対露制裁に加わらず、ロシアの苦境に乗じ安価な石油を大量に輸入して自国の利益増大に動いている。そのような国を「平和の仲介役」と呼ぶわけにはいかない。中東やウクライナ問題で平和実現の役回りを演じても、南シナ海や台湾では軍事的威嚇を続けている。北朝鮮の度重なるミサイル発射を擁護する姿勢も崩していない。

 日本は惑わされるな

戦狼外交をやめ、具体的な行動で平和実現の努力を示さない限り、中国の発言に信を置くことはできない。日本は結束を強める権威主義国家の動きに備えるとともに、そのイメージ戦略やプロパガンダに惑わされることなく、自らの防衛体制強化を急ぐ必要がある。