米国が主導した2003年のイラク戦争開戦から、20日で20年となった。この間、中東は「対テロ戦争」の最前線となってきたが、近年は米国が関与を低下させた隙を突く形で中露が影響を拡大させており、「大国間競争」の主戦場の一つへと変わりつつある。
米を尻目に中国は軍拡
イラク戦争は、米英中心の有志連合がフセイン政権の大量破壊兵器保有疑惑を理由に攻め込んだことが始まりだ。3週間で首都バグダッドを制圧し、フセイン政権を打倒。軍事作戦自体は成功だったが、戦後処理を誤ったことで内戦状態に陥った。これにより戦争が泥沼化・長期化し、犠牲が大幅に膨らんだことは痛恨の極みだ。
それでもブッシュ(子)米政権は、撤退を求める国内の圧力に屈せずに米軍増派を断行し、治安回復の道筋を付けたことは評価に値する。だが、続くオバマ政権が11年に性急な全面撤退を行ったことで、過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭を許してしまう。結局、米軍の再駐留を余儀なくされるが、一定規模の兵力を残しておけばイスラム国が猛威を振るう事態は避けられた可能性がある。
開戦の根拠となった大量破壊兵器は見つからず、米国の威信に傷がついた。ただ、残虐なフセイン政権による独裁政治からイラク国民が解放され、不十分ながらも民主主義が根付いてきた側面も見落とすことはできない。自由を享受するイラクの若者たちの間で活気や自信が広がりつつある様子を伝える海外メディアもある。イラクから自由と民主主義が中東全体に波及していくことが期待される。
一方で、イラク戦争が間接的に中国の軍事的台頭を後押しする結果となった現実も否定できない。米国はイラクとアフガニスタンでテロ組織の掃討を繰り広げてきたが、そこで用いられる作戦や装備は、対中国にはほとんど役に立たない。米国が20年近く中東に釘(くぎ)付けになるのを尻目に、中国は軍拡に邁進し、米国との軍事力の差を一気に縮めてしまった。
トランプ前米政権は18年に発表した国防総省の国家防衛戦略で、テロとの戦いから中露との大国間競争に重点をシフトさせると宣言した。だが、米軍の態勢や装備を一朝一夕に変えられるはずがなく、揺らぐ中国との軍事バランスを好転させられないでいる。
米国内で厭戦ムードや孤立主義的な主張が広がったこともあり、中東に対する米国の関与は大幅に低下した。これに乗じたのが中露とイランだ。
ロシアはシリア内戦に介入し、劣勢だったアサド政権に軍事的勝利をもたらす一方、中国も最近、サウジアラビアとイランの外交関係正常化を仲介するなど、中東で存在感を高めている。イランも宿敵だったフセイン政権が消えたことで影響力を拡大させている。
米は戦略の立て直しを
この20年で中東の勢力図は劇的に変化した。日本をはじめ各国が原油輸入を依存する中東の安定は死活的に重要である。米国は中東での影響力を取り戻すため、戦略の立て直しが求められている。



